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狙われた恋人10

 一方、周たちの方でも着々と冰の奪還に向けての準備が整ってきていた。  鐘崎組からは僚一と遼二親子、それに源次郎といった組の中枢が現地に出向くので、留守を守る幹部の清水が若い衆の春日野を連れて空港まで見送りに来ていた。渡航前に外からの様子を伝える為である。 『若、ただいま拉致犯のものと思われる機体が滑走路に出たのを目視致しました』  清水からの連絡で、的確な状況が把握できた。 「ご苦労。向こうへ行っても逐次連絡は入れるが、留守を頼む」 『お任せください。若たちもどうぞお気をつけて』 「ああ、頼んだぜ」  周のジェットが飛び立つのは、どうやっても拉致犯の離陸後となるわけだが、それでもさほど間を置かずに飛行許可が取れたのはさすがといったところか。こうして一路、香港へと向かったのだった。  離陸後、機体が安定高度に入って通信機器が使えるようになると、状況はかなり具体的なことまでが明らかになってきた。  香港のファミリーからの知らせで、春節のイベント時にマカオから来ていたカジノ関係者の名前も絞り込めてきて、幸先が感じられる。周の父の(スェン)と兄の(ファン)自らが陣頭指揮を取って、冰をさらった者の割り出しに全力を尽くしてくれていたからだ。既に多数の人員をマカオに差し向けて、詳細な調査に当たってくれているとのことだった。 「兄貴からの連絡で、犯人が三人に絞れ込めたらしい。今、一人一人の所在を確認中だそうだ」  周の報告を聞き、パソコンの中のリストを見ながら鐘崎親子が三人の素性を洗っていく。その中の一人に目をつけた僚一が、確信したかのように言った。 「張敏(ヂァン ミィン)……か。どうもこの男が臭いな。マカオではそこそこ羽振り良くカジノを経営しているようだが、どちらかといえば新参の部類だ。こいつは一代で店を立ち上げてここまで大きくしたらしいが、資金作りに裏ではかなり黒いことに手を染めているようだ」  僚一の情報網は広大で、各地に信頼できる大物権力者との太いパイプを持っている。当然マカオにも古くから裏社会で顔のきく人物との繋がりも多い。  その彼らに訊いたところ、張という男がかなり強引な手段でのし上がってきているという噂を突き止めたわけだ。 「ヤツは自分が欲しいと思ったものには手段を選ばないとの評判だ。年齢は三十半ばで、この世界では若造といえるが、マカオでも仁義を重んじる古参の重鎮連中たちからは疎まれている様子だ」  つまり、現在のカジノを更に大きくするべく、冰の見事な腕が欲しいというわけなのか。突然、日本にまでやって来て拉致している点から考えても、強引と言われる男のやりそうなことだ。  それだけでも腹立たしいところではあるが、周にとってはもっと憤りそうな事実があると僚一は少々口を濁した。 「実はな、焔……。この男についてはもう一つ嫌な噂を耳にした。ヤツは色に関してもかなり派手で、しかも両刀――つまり男女見境ないということだ。玄人から素人まで気に入った者には金にモノを言わせて片っ端から手をつけると有名らしい」  僚一の言葉に周のみならず、鐘崎や紫月も途端に険しく眉根を寄せた。

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