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狙われた恋人23
「周焔さん、雪吹君も……ちょっと落ち着いてくれたまえ」
「あんたは黙ってろ! これは俺たち家族の問題だ」
「何だよ、聞く耳持たないのは兄さんの方だろー? ねえ、張さんからも何とか言ってくださいよ!」
「ほう? 今度は張に助け舟を頼もうってか? だからガキだと言ったんだ」
「くぅー! またそうやって揚げ足取るー!」
「お前にゃ、ひとり立ちなんぞ無理だ。うちのファミリーの中じゃ兄貴の言うことは絶対なんだ。素直に聞いとけ!」
「うわー、うわー、もう焔兄さんなんか知らないもんね! いいよ、だったら風兄さんに頼むもんね!」
「ああ!? 何だと? 風の兄貴に言い付けようってのか!?」
双方共にソファから立ち上がって膨れっ面を付き合わせる。一触即発で取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気に、張は苦笑しつつも頬をヒクつかせてしまった。
思ってもみなかった展開にすっかりと気を削がれたというのもある。これまでの様子からして、冰が本当にここに残りたがっているのは嘘とも思えないし、一応は警戒していた周というこの男も、ムキになって兄弟喧嘩を始めるくらいだから、思っていたより大したことはないと感じたのだろう。張は自分に勝機があると踏んで疑わない様子だった。そうして有頂天になった彼は、つい二人の演技に騙されて言うつもりのなかったことを口走ってしまっていた。
「だったらこうしたらどうだ。雪吹君がここに残るか周さんの元に帰るかを賭けて、うちのカジノで決着をつけるというのでは?」
その提案に、言い争いをしていた二人がピタリと会話をやめて張を見やった。
「カジノで決着だと?」
周がジロりと眉根を寄せながら問う。
「本来は雪吹君本人の希望を優先すべきとは思うが、周さんにもお立場があろう。俺も知らなかったとはいえ、周さんのご家族の雪吹君を強引に連れて来てしまった詫びの気持ちもあるんだ。ここはひとつ、俺と周さんで勝負をして、勝った方が雪吹君を得るというのがいいんじゃないかと思うが。もちろん、その勝負のディーラーは雪吹君にやってもらうということでどうかな?」
張はよほど自信があるのだろう。冰にディーラーをやらせれば、必ず自分を勝たせてくれると思い込んでいるようだった。
勘違いも甚しいところだが、周はその提案に乗ってやるのも悪くはないと思った。冰がこんな芝居をしてまで張の元に残りたいと言うからには、そうせざるを得ない理由があるからなのだろう。もしかしたら張にそう言えと脅しを受けている可能性もある。その脅しの内容がどんなものかまでは分からないが、おそらくは素直に従わなければ身の安全は保証しないというようなことを言われたのかも知れない。
今ここで強行突破して冰を連れ帰ることも可能だが、そうなれば確実に面倒事に発展するだろう。銃撃戦などという最悪の事態になることも考えられる。
そう踏んだ周は、ここはひとまず張の提案に乗ることを決意したのだった。
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