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狙われた恋人26

「――冰が狙う位置なら想像がつく。あいつならきっと赤の一番だろう」  周が自信ありげに言うと、鐘崎は不思議そうに首を傾げた。 「何故そう思う。まさかお前の名前が焔だから赤、冰にとってお前がこの世で一番大事な奴だから――とか言うんじゃねえだろうな?」 「分かってるじゃねえか。その通りだ」  周は自信満々の様子だが、はたして本当にそれで合っているのだろうか。鐘崎からすれば若干不安に感じてしまう。 「お前、そりゃちょいとばかり安易過ぎやしねえか? 賭けの対象は冰なんだぞ? 万が一にも間違った位置に賭けたら取り返しがつかねえことになる」 「……その時は最終手段だ。冰の為にも大事にはしたくねえが、俺はどうあってもあいつを手放すつもりはねえ。例え戦争をしてでも張をぶっ潰して冰を取り返すまでだ」  周の瞳には裏社会に生きる男の本質ともいうべき決意の(ほむら)がユラユラと燃え盛っていた。 「元々、俺のもんに手を出しやがったのは張の方だ。遠慮はいらねえ」 「てめ、最初っからそのつもりだったってか?」  つまり、勝敗などあってないようなもので、どう転ぼうが最終的には力で制圧するつもりだということだ。鐘崎はふうと小さな溜め息をつきながら苦笑してしまった。 「……ったく! そんなところだろうと思って張の応接室のソファの中に盗聴器を仕掛けてはきたがな。おそらく張は賭けの位置を冰と打ち合わせるに違いねえ。情報だけはあって損はねえ」 「――相変わらずに手はずがいいな」  周も苦笑を誘われつつ、と同時に素直な感謝の言葉を付け足した。 「カネ――すまねえな。てめえにまで苦労を掛けちまう」 「水臭えことを言うな。俺だって何度もお前に助けられてる。お互い様ってやつだ」 「ああ――本当にすまねえ。てめえにも親父さんにも、それに源次郎さんや皆にもご足労掛けるが――今夜が勝負だ。すまねえが力を貸してくれ」  真摯に頭を下げた周に、鐘崎も源次郎ももちろんだというふうにうなずいてみせた。 「心配するな。張の手下共は俺たちが万全の態勢を敷いて抑える。冰が言ってた毒矢のことも含めてカジノではどんな事態になっても抜かりがねえように人員を配置する。お前は余計なことを考えずに張との勝負に集中してくれればいい」 「ああ、頼りにしてるぜ」  そんな会話をしていると、鐘崎が仕掛けてきた盗聴器が早速反応したようだ。源次郎が拾った音を録音してパソコン内へと収めていく。音声からは張と冰の会話が聞こえてきていた。

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