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狙われた恋人28

 周がホテルへ戻ると父親の隼と兄の風が帰りを待っていた。 「お前に言われた通り、若いヤツらを冰たちに気付かれないように張り付かせて様子を窺わせている。行き先や買い物の内容などをできる限り詳細に把握するつもりだ」 「父上、兄上、ありがとうございます。お二人にはもちろんのこと、ファミリーの若い衆たちにもご足労をお掛けして恐縮です」  深々と頭を下げると、父も兄も『とんでもない』と言って首を横に振った。 「冰はもう我々の家族も同然だ。俺にとっても風やお前と変わらない息子と思っている。何も遠慮はいらない」 「手配して欲しいことがあれば、どんなことでも全力で力になるから遠慮せずに言い付けてくれ」  父と兄の頼もしい言葉を周は心から有り難く思うのだった。と同時に、もしもカジノでの勝負が上手く運ばなかった場合に備えて、力尽くで冰を奪還する手はずの方も抜かりなく整えていく。カジノの表玄関に裏口、周辺の道路の至る所に奪還用の車の手配、ヘリポートまで最短で抜けられる道筋。そして張のカジノの見取り図なども入手して、事細かに導線を考えていく。周一族はむろんのこと、鐘崎と父親の僚一や源次郎も加わって、細心の手配が敷かれていった。  その頃、冰の方では今夜着用する為のディーラーの衣装の買い物などに動いていた。彼の尾行を続けていたファミリーの若い衆らからも続々と情報がもたらされてくる。 『ただいま冰さんの買い物が済みました。購入されたのは白い無地の中華服です。柄などは入っておらず、まったくの白地でした。さすがに誂えるには時間がないので、吊るしのもので冰さんのサイズに合ったものを選ばれていました』 『次の店では中華服に合わせた靴を一足購入されました』 『その後に行かれたのは手芸用具専門店です。そこでは刺繍の入ったデザインシールを数点選ばれていました。いわゆるアイロンなどで服に貼り付けることのできる即席の”アップリケ”のようなものだそうです。買われたのは龍や花や雲など古典的な柄がデザインされた刺繍のアップリケ数種類です。それから、手作り用のアクセサリーのパーツを数点選ばれました。女性たちの間で人気の趣味で作るブレスレットやチョーカーなどの材料だそうで、イミテーションの宝石っぽいものです。アクリルやガラスなどの素材を求められていました』 『最後に行かれた店では小さな花束をお一つ買われました。花の種類は、冰さんたちが帰られた後で店主に聞いたところ、白い蘭と紅薔薇をメインにかすみ草とグリーンを少々入れたごく普通の花束とのことでした』 『現在は張のカジノに立ち寄られています。店はまだ開いていないので、中の様子は分かりませんが――おそらくルーレットの盤などの確認の為かと思われます。引き続き監視を続けます』  皆からの報告を受けて、周は冰が何を考え、どう動こうとしているのかを思い巡らせていた。

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