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狙われた恋人33
「そうか……そうだった……のか」
張はヨロヨロとしながら立ち上がると、疲れた表情に弱々しい苦笑を浮かべてみせた。
「俺は何も知らずに……キミに横恋慕しようとしていたということか……」
だったら最初にそう言ってくれればよかったものを――そうも思ったが、よくよく考えてみれば、拉致まがいのやり方で有無を言う暇も与えず強引に冰をさらってきたのは事実である。周焔という香港マフィアの倅がいち早く追い掛けて来たのも、単に養子にした家族を取り戻す為だけではなかったということに気付かされる。
「俺は事を急ぎ過ぎたというわけだな……」
張はうなだれながらも自身の計画の甘さに苦笑が抑えられずにいた。
もっと時間を掛けて焦らずに情報を集めてからにすればよかったのか。冰というこの青年が、まさか香港を仕切るマフィア頭領ファミリーの大事な存在だということまでは突き止められずに拉致してしまったからには、それなりの制裁は免れないだろう。もしかしたらこのカジノも潰されてしまうかも知れない。いや、それだけで済めばいい方で、最悪は命を取られるなどということも有り得ない話ではない。周ファミリーからどんな報復が待っているのか考えるだけでも目眩がしそうだった。
「俺は大それたことをしてしまったんだな……」
張が諦めの言葉を口走ったその時だった。
カジノの入り口辺りがザワついた様子に、皆が一斉にそちらを見やると、何とそこには周の父親と兄が側近たちを従えながら姿を現したのに場内は騒然となった。
「済んだようだな」
父親の隼が重々しい声音で言うと、周と冰は揃って深々と頭を下げた。
「父上、ご心配をおかけ致しました」
隼と風は盗聴器を通して店内の様子をずっと聞いていたのだ。無事に勝負がついたことを受けて、頭領本人が出向いてきたというわけだった。
隼は張の前に立つと、怒るでもなく冷静な口調で淡々とこう言い放った。
「張敏だな。冰が我が一族の縁者ということを――知らなかったとはいえ、此度のことはたいへん遺憾だ」
「も……申し訳ございません……!」
「冰は俺の大事な息子に変わりはない。無事に戻ったとはいえ、けじめはつけさせてもらうぞ」
「……はっ」
「既にあんたの持っている資金ルートを一つ潰させてもらった。異存はないな?」
「……は」
資金ルートを潰されるのは非常に痛い。だが、それも致し方ないといえる。問題は――それだけで済むはずがないということだ。
次はどんな制裁を言い渡されるのだろう。頭の中を真っ白にした張を待ち受けていたのは、意外も意外、信じ難いような隼の言葉だった。
「ここマカオには我がファミリーの息の掛かった店がある。シャングリラを知っているか?」
シャングリラといえば張の店とも一、ニを争う大型カジノだ。むろんのこと知らないわけもない。
「存じております……」
「そのシャングリラの経営権をあんたに任せようと思うが如何かな」
信じ難い申し出に、張は驚いたように隼を見上げた。
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