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恋敵12

「ええ。それで――あの女の人ですが、どうも彼らの話ではただの借金取りに追われているというわけではなさそうなんです。嘘か本当か知りませんが、あの男たちは彼女が日本に引っ越してくる前に勤めていた香港の会社の人間のようです」 「じゃあ、奴らは会社員ってことか? どっちかっつったら……チンピラ風情の物騒な連中に見えたがな」  会社員だというなら、それはまたえらく話が食い違うではないか。例の女が嘘をついたのか、それとも男たちの言うことがデタラメなのかは分からないが、どうにも腑に落ちない。だが、冰の聞いた話によれば、もっと驚くようなことが明らかになったというのだ。 「彼女、その会社で経理を担当していたらしいんですが……会社の金を横領したんだとかって……」 「横領だ……!?」  思わず大声が出そうになって、慌てて潜める。 「男たちはそう言っていました。金が返せないなら彼女自身に働いて返してもらうとかで……身体を売る闇市に堕とし込むとか言ってて……」 「人身売買か――。まあ、手っ取り早く稼がせるには……一番に思い付きそうな方法だな」 「なんだかすごく怖いことを言ってて……裏ビデオに出すとか、演技ができないなら強姦ものにするとか……」  冰が声を震わせながら眉をしかめている。紫月も溜め息を隠せなかった。 「――で、女の件はだいたい分かったが。何だって俺らまで一緒に拉致られちゃってんだ?」 「ええ、それについては彼らも扱いに困っていたようです。ただ……顔を見られた以上放ってもおけないらしくて。それどころか、容姿からして男色好みだから、一緒に連れて行って売っちまえばいいとか……そんなことも言ってて」 「はぁ!? おいおい、俺らまで売り飛ばされようとしてるってわけか? ンなの、遼と氷川の耳に入ったら、それだけで血の海と化しそうだ……」 「……そういう使い道もあるっていう仮の話のようでしたけど……。俺と紫月さんのことは、とにかく向こうに着いて彼女が勤めていた会社の社長に会ってから相談するとかって」 「ふぅん。なら、まだ身売りさせられるってのは決定じゃねえってわけな?」 「多分……」  落ち込む冰の肩に腕を回してなだめながら、紫月は元気付けるように微笑んでみせた。 「ま、心配すんなって! 今頃は遼と氷川も俺らが消えたことに気付いてっだろうから。じきに助けが来るさ!」  モゾモゾと上着のポケットを弄りながら、 「そういやスマホは?」 「取り上げられました……」 「はぁ、やっぱしか。ま、そうだろな。けど、コイツは無事だ」  紫月は自身のピアスを指差しながら、ニッと白い歯を見せて笑った。 「GPS付き愛のシルシさ。冰君のもちゃんとあるじゃね?」  今度は冰の腕時計を指してウィンクする。

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