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恋敵14

 一方、深夜の汐留では、周らが一連の関係者の割り出しに苦戦していた。  マフィアファミリーの中で育った周の側近として、幼い頃からずっと人生を共にしてきた李は、こういった非常事態にはある意味慣れているといえる。恨みを買うことも多い環境下にあって、襲撃してきた相手を突き止めることには多彩な手腕を持っている李であったが、今回はなかなかにそれが発揮できずに苦汁を飲まされているといった状況なのだ。 「香港の裏社会の関係者から洗っていますが、今のところこれといった人物は浮かんできません……」  如何に精通していようと、各組織のトップから幹部あたりまではすぐに洗い出せるが、下っ端まですべてとなると、とてもじゃないが把握しきれるものではない。 「冰さんと紫月さん、お二人のスマートフォンは取り上げられたとしても、GPS付きのピアスと腕時計までが反応しないのが気になります。仮にそれらにまで気が付いて潰したというのであれば、かなりの精鋭と思われますが――今回はこの女性絡みのようですし、そちらの線は薄いのではないかと」  李がパソコンを操作しながら言う。 「――そうかもな。まだGPSに気付かれていないとして、そいつが反応しねえってことは電波の届かねえ場所にいるのかも知れねえ」 「はい。相手は広東語を操っていたとのことから考えて、もしかしたら既に国内を脱出しているかも知れません。ただいま、今夜の渡航便を一般路線からプライベート便まですべて確認しております」  まだ国内にいてGPSが生きているなら、当然反応するはずだ。それがまったくないということは、李の言うように既に空の上なのかも知れない。 「先ずは男たちよりも女の素性を突き止めるのが近道だろう。この女が何故、広東語をしゃべる連中に追われているのかが分かれば、拉致した奴らの正体も自ずと見えてくる」  周と鐘崎は、スイーツの店から転送した防犯カメラの映像を一から詳しく調べ直しにかかっていた。その結果、女が飲食を注文せずに直接冰らの個室へ向かっていたことが分かってきた。 「やはり女の目的は冰か紫月のどちらかだろう。迷いなく個室を訪ねているところからして、少し前から見張っていたか、後を付けられたのかも知れねえ」  もしも後を付けられたとするなら、この社屋からと考えるのが妥当だろう。周と鐘崎は社屋近辺の監視カメラの方も調べていくことにした。 「あいにく――店内で女の顔が映っている箇所が見当たらねえな。所々に姿は確認できるが、そのすべてが一部分だけだ」  客と客の間に頭とスカートの裾だけというような映像ばかりで、唯一大きく映っているのは個室での後ろ姿だけだ。 「可能性は薄いが、わざとカメラを避けての行動だとすれば――かなりのやり手といえる」  そうなると、目的は冰や紫月個人というよりは、彼らを餌にして周か鐘崎が本命のターゲットということになる。だが、既に事件から数時間が経過した今、どこからも何の連絡もないということは、そちらの線は考えにくいと思えた。

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