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恋敵21
結局、冰と紫月は社長という男に連れられて、遅めの朝食を共にすることとなった。
「キミらには顔を見られたということで、私の部下が先走って一緒に連れて来てしまったということだが……。二人共、日本に住んでいるのかね?」
「ええ、まあ……」
「私としては、あの女のことを黙っていてくれればキミらを帰しても構わないと思っている。だが、変な節介心を出されて警察に駆け込まれたりしては困る。こちらも好き好んであの女を売り飛ばしたいわけじゃない。だが、我が社もそれほど大きいわけじゃなし、例え五千万円といえど痛いところなんだ。やむを得ん事情と思って理解してもらえると有り難いんだが」
「はぁ……それは……お気持ちは分かっているつもりです」
冰がそう答えながらも、重い表情でいると、社長という男も少々気の毒そうに溜め息をついた。
「キミは本当に心根がやさしい子なんだな。あの女とはいつからの付き合いなんだね? 学生時代の友人かね? それとも……キミらの内、どちらかの恋人というわけか?」
食事をとりながら社長が訊く。冰と紫月はさすがに食事は遠慮したものの、お茶だけはご馳走になることにして話に付き合わされているといったところである。
この社長という男も、横領云々がなければ、取り立てて悪どいことに手を染めているような人間でもなさそうだというのが話していく内に感じられた。どちらかといえば堅実に会社経営に尽力している真面目な人柄といえるだろうか。そんな彼が闇市にまで頼らざるを得ないというのだから、社としても苦渋の選択なのだろう。
事情は理解できるが、それでもどうにか女に色を売らせることだけは勘弁してもらえないだろうか。そんなふうに頭を悩ませていたちょうどその時だった。
「雪吹君! 雪吹君じゃないかい?」
少し離れたところからそう呼ぶ声に後ろを振り返れば、なんとそこにはあの張敏がうれしい驚きに声を弾ませながらといった調子で近付いて来るのが分かった。
「え……!? 張さん!」
冰がガタンと勢いよく立ち上がったのを見て、社長は言った。
「何だ、知り合いかね?」
「え? ええ、はい」
「すまんが、今のキミらの状況は黙っていてもらえると有り難いね。助けを求めたりして大事にされたくはない。脅すつもりはないが、ここはひとつ適当に話を合わせて無難に追い返してくれないか……」
社長としても、元々冰たちに危害を加えるつもりもなさそうである。単に事情を知られてしまった成り行きで、この先の扱いを決めかねているだけの様子が見て取れるので、二人は言われた通りに従うことにしたのだった。
「分かりました。無視すれば逆に変に思うでしょうし、ちょっとご挨拶だけさせてください」
冰はうなずくと、席を立って張の元へと駆け寄って行った。
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