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厄介な依頼人35

「見たトコ、あんたもゲス野郎ってわけじゃねえじゃん。どっちか言ったら超がつくほどイイ男の部類だし、実際腹立つくらい男の敵って感じ! その気になれば男も女もよりどりみどりなんだろうからさぁ、わざわざ他人のカレシに手出すとかよせば?」 「そうそう! この彼女がアンタのせいでカレシが離れていったって嘆いてんのよ。女泣かすとかさー、最低じゃね?」  言いたい放題である。つまり、このゴロつきたちは繭からそう聞かされたということになるのだろう。先日の狂言誘拐の時と同様、また彼女が金で雇ったのかも知れない。それを証拠に、狂言誘拐の時にも手伝ったと思われる男二人も顔を見せていた。残りの連中は彼らの顔見知りだろうか。  雇われる方も雇われる方だが、毎度嘘八百を並べ立てて騒ぎを起こす、この繭という女には閉口させられる。こんな女に姐さんが煩わされるかと思うと、春日野は憤りが隠せなかった。  だが、ここで我慢しなければ紫月にも川久保老人にも何をされるか分からない。腕に自信はあるし、紫月とて体術に長けているのは承知だが、如何せんこの人数だ。完全に防ぎ切れるかといえば不安が残る。二人で応戦している間に、川久保老人に危険が及ばないとも限らない。罵倒には腹が立つが、ここは踏ん張って相手の言い分をすべて聞き出し、話し合いで時間を稼ぐ方向に持っていくべきと判断した。そうする内に組からの応援が到着するだろうからだ。 「それで、アンタらの目的は何なんだ。その女性の彼氏を取っただのとワケの分からんことを言っているが、こちらとしてはその女性の彼氏という人には会ったこともない。何かの勘違いじゃねえのか?」  春日野とて任侠一家に育ち、今は鐘崎組の中でも一目置かれている精鋭だ。言葉じりこそ荒くはないが、対面した者を捉えて離さない眼力の鋭さなどは素人を震え上がらせるには十分といえるオーラを放っている。  男たちは若干引き腰気味ながらも、さすがにこの人数差では負ける気はしないと思っているのだろう。数に身を任せて春日野を嘲笑った。 「どうも話が見えねえなぁ。そこにいる超絶イケメンがさぁ、この彼女の男を横取りしたんだろ?」 「素直に男を返してやりなって! 俺らの用はそれだけなんだけど!」 「ま、話して分かんねえようなら……ちっとは痛い目見てもらうことになるけど。どうする?」  ゴロつきたちの間では、すっかり紫月が繭の恋人に横恋慕したような見解でいるらしい。春日野は呆れ返ってしまい、咄嗟には返す言葉も見つからないといったところだったが、それに対して反論を繰り出したのは何と川久保老人であった。 「お若いの、お前さん方は何か勘違いをしていやしないかね? ここにいる紫月ちゃんにはとうに生涯を誓った大事な御方がおるんじゃ。間違っても他所様の恋人を奪うようなマネをするお人じゃのうて!」

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