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厄介な依頼人37

「そっか。つまりお嬢さんはそれだけあいつのことが好きだってことなんだな?」 「そうよ! アタシは本気! あの人と一緒になれるなら……何にもいらない!」 「けど、お嬢さんは遼と出会ってまだ間もないだろ? あいつのどこにそんなに惚れたんだ?」 「どこって……」 「例えば顔が好みだったとか、態度がやさしかったとか、何でもいいさ。思ったままを聞かせてくれないか?」  紫月があまりにも穏やかに訊いてくるので、つい対抗心を忘れて思っているままの気持ちが口をついて出てしまいそうだ。まるでカウンセラーに話すかのように、繭は素直な気持ちをありのまま吐き出した。 「そんなの全部よ……。もちろん顔も格好いいし、背も高くて……一緒に歩いて腕を組んだりしたらどんなに素敵だろうとも思うし……それに……喧嘩も強そうだしアタシを守ってくれそうだし、友達にだって自慢できるわ」 「うん、確かに。それから?」 「それから……って……」  繭は言葉を詰まらせながらも、紫月には負けたくないのか、懸命に先を続けた。 「デ、デートだって素敵なところに連れて行ってくれそうだし……結婚記念日や誕生日も……彼となら夢のような時間を過ごせるわ」 「他には?」 「他にはって……とにかく全部よ! あの人となら全部が薔薇色に輝くような人生を送れると思うからよ!」 「薔薇色――か」 「そうよ! 結婚して可愛い子供を産んで親子三人、いえ四人かも五人かも知れない! あの人と一緒に幸せな家庭を築きたいわ!」  話を聞いているとすべてが自分よがりで、鐘崎に対しても自分が彼から与えてもらうことしか考えていない。鐘崎を好きだというよりも、単にいい男にいい思いをさせてもらうことしか望んでいない口ぶりだ。  だがまあ、夢見心地な女のこれが一等素直な気持ちなのだろうと、紫月はある意味バカ正直というか、よく言えば純粋なんだなとヘンな感心が湧いてしまい、やれやれと思うのだった。 「アンタの気持ちは分かった。で、その相手が遼二なら、今言った夢が叶うだろうって思うわけね?」 「そうよ……! いけない?」 「いけないなんて言わねえさ。好きな男と幸せになりてえって思うのは当たり前のことだし、素晴らしいことだぜ。けど、それってお嬢さんと遼二が相思相愛だった場合に初めて実現することだろ? もしもあいつにその気がなければ、俺がいようがいまいが叶わない夢じゃねえか?」  紫月の言葉に、繭はキッと剣を浮かべた。 「何よ……アタシじゃ遼二さんに愛されないと思ってるわけ? 彼が好きなのは自分しかいないとでも言いたいの?」 「そうじゃねえ。ただ、遼二を好きならこんなふうに他人様を巻き込んだりしねえで、あいつ自身にアンタの気持ちを打ち明けるべきじゃねえか? アンタ、この間も誘拐事件を起こしたり、今日みたいに何の関係もねえ川久保のじいちゃんやここにいる若い兄ちゃんたちを巻き込んで、そんなやり方は良くねえって思うんだ。親父さんにだって心配かけるだろうに」

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