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極道の姐33

 確かにディーラーの技でカードゲームなどを自在に操れる冰ならば、敵の目を欺いて銃をすり替えることは可能かも知れない。だが、実弾入りの銃が目の前にある状況下では危険なことに変わりはない。冰の覚悟や腕前には信頼がおけるものの、隼としては実の息子同然の彼をそのような危険な目に追い込むことを心苦しく思うと同時に、心底心配しているようだった。 「冰――」  隼は両手を広げて冰を懐の中に抱き締めると、自らの指輪を外して差し出した。大きな琥珀の石がはまった立派な指輪だ。 「これをはめて行け。焔がお前さんの演技を見抜けないということはないとは思うが、万が一の為だ。今回、お前さんは焔に愛想を尽かされて恨みに思っているという演技をしなければならん。焔が言葉通りに受け取るとは思えんが、この指輪を見れば、何も言わずとも焔にも風にも真意が伝わる」  周兄弟が幼い頃からずっと目にしてきた父の象徴ともいえる大切な指輪を冰に託そうというのだ。 「お父様、ありがとうございます……! このような大事なものを……」 「お前は風と焔同様、かけがえのない俺の大切な息子だ。この指輪はきっとお前を守ってくれるだろう」 「はい……はい! 必ず白龍とお兄様、そして鐘崎さんと一緒にお父様の元へ戻ります!」 「うむ、頼んだぞ」 「はい!」  張の部下からもモデルガンが届き、冰、そして僚一と紫月らの準備が整うと、いよいよ敵陣に向けて出発することとなった。冰の案内役として、張と張の知人であるスラム街を仕切るボスの男も付き添ってくれるという。 「ロンは俺のガキの頃からの馴染みだ。俺がいればヤツもそう警戒せずにすんなりと中に入れてくれるはずだ」 「ありがとうございます! 皆さんのご助力に感謝致します」  深々と頭を下げた冰に、張とボスの男も力になれて嬉しいという表情でうなずいた。 「あんたはここマカオのマフィアということにしといてくれ。ロンのヤツは長年米国に行ったきりだったんで、マカオの裏社会のことには疎い。あんたの顔を知らなくても怪しまれんだろうからな」  ボスの男の提案で、冰はマカオのマフィアの一員ということで通すことに決まった。冰と彼が顔見知りでも、地元マカオの繋がりならば怪しまれにくいからだ。 「時間はないが、冰。弾込めと撃ち方を教えておく」  隼がモデルガンを手に取って一通りの扱い方を手解きする。 「お父様、ありがとうございます!」  ただ、実のところ冰は銃を目にするのが初めてというわけではなかった。育ての親だった黄老人はディーラーをしながら裏社会にも顔が利く人物だった為、銃の扱い方なども一通り教えてくれていたからだ。試し撃ちなどの経験もあったから、扱い方自体は分かるものの、むろん実戦で撃ち合ったことなどはないので、隼からの教示に真剣に耳を傾けておさらいをする冰であった。

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