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極道の姐42

「この……下衆男ッ! 最ッ低!」 「その最低男のガキを産みたがったのはてめえだぜ? ごちゃごちゃ抜かしてねえで、いいからそこを退け!」 「……ッく! こんな野獣に抱かれてる紫月ちゃんも気の毒ね! あんたなんか紫月に捨てられればいいのよ!」 「は――、お生憎様だな。てめえなんぞに心配してもらわんでも、あいつは俺の側から離れたりしねえよ」 「まあ! 随分と自信がお有りだこと! アタシだってね……好きであんたなんかの子供が欲しいわけじゃないんだから……! あんなことでもなきゃ……誰があんたなんか相手にするもんですか!」 「あんなことだと? てめえも何かワケ有りってわけか」 「……ッ、そうよ! 本当ならアタシは……好きな男と一緒になれるはずだったのよ! それなのに……」 「好きな男だ? そいつにフられでもしたってか?」 「し、失礼なこと言わないでよねッ! 誰がフられてなんかいるもんですか! 彼とはこの五年間ずっと相思相愛だったのよ! なのに……組の体裁を保つ為にあのヒトは他所の組長の娘と縁組みさせられることになって……アタシは身を引くしかなかったわ……! あんたなんかにアタシの気持ちが分かるもんですか!」  どうやらサリーは好いていた男に捨てられたらしい。話の内容からして、付き合っていた相手の男は組関係の人間なのだろう。 「それで腹いせに同じ裏の世界の俺に目をつけたってわけか。つまり、俺は体のいい当て馬ってわけだな? 相手の男はヤクザ者か」  勘の鋭い鐘崎には今の短いやり取りですっかり企みがバレてしまったと思ったらしい女は、言い訳も儘ならないと踏んだのか、今度は逆に開き直り始めたようだ。 「その通りよ……! あなたも名前くらいは聞いたことがあるかも知れないわ! 彼、有名な組の跡取り息子だもの」 「ほう? 正直なところ興味はねえが、乗り掛かった船だ。そいつの為にこんな目に遭わされていることだしな、名前くらい聞いてやってもいいぜ」  鐘崎が言うと、女は素直に男の名を口にした。 「森崎組の一人息子の瑛二よ……」  その名には聞き覚えがあったのだろう、鐘崎が『ああ』と薄く笑った様子が声音で分かった。 「森崎瑛二か。確かヤツも今は組の若頭だったな」 「そうよ……! やっぱり知ってたのね、あの人のこと」 「互いに顔を見れば会釈くれえは交わすだけの間柄だがな。ただ、名前の語呂が俺と似てるんで、方々でヤツの名を聞かされる機会が多いというだけだ」  確かに鐘崎遼二と森崎瑛二では語呂的に近いといえる。裏社会の集まりに顔を出したりすると、決まって一度は名前が似ていると言われて、その男の話が出るので聞き覚えていたわけだ。

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