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極道の姐44

「あなた……紫月……ッ!? いったいどうやってここに……」 「ンなこたぁ、どうでもいい。()りゃー、ただてめえの亭主の危機に駆け付けたまでだ」  紫月は抱き上げていたサリーを下ろすと、開けたワンピースの胸元を掴んで正し、自らの上着を押し付けた。 「とにかくそれを着ろ! うら若え女が、ンな破廉恥なカッコさらしてんじゃねえ」  サリーも正気を取り戻したわけか、慌てて受け取った上着で自らの胸元を隠した。 「話は全部聞かせてもらったぜ。あんたの気持ちも分からねえじゃねえが、バカなことはやめるんだ」 「な、何よ……。邪魔しないで!」 「そりゃ俺ン台詞だろ? 例えばあんたが遼二のことを好きで好きで仕方なくて、この世の誰よりも大事だってんならまだしもだ。ところが、他所の男への当て馬にする為だけにこんな目に遭わされたんじゃ到底黙っちゃいられねえさ。遼二は俺ン大事な、この世で唯一無二の亭主だからよ」 「そ……んなこと分かってるわよ! 銀座でもあなたたち二人のことは有名だし、アタシだって止むに止まれない事情で頼んでるんだから! 今後一切あなたたちに迷惑は掛けないわ! たった一回遼二を貸してくれるだけでいいって言ってるの! あなただって男なんだから、そのくらいどうってことないでしょ? 女みたいに嫉妬したりするわけもなし!」  またえらく勝手な言い分である。紫月は片眉をしかめながら呆れた溜め息をもらしてしまった。 「あンなぁ、野郎だからってヤキモチ焼かねえなんて思うなよ? じゃあ反対にあんたの男を一晩でいーから俺に貸してくれっつったら、あんたは『はい、どうぞ』って貸すンかよって話!」 「バ……! バカ言わないでよ! そんなの冗談じゃないわ!」 「だろ? 俺だって同じさ。てめえの亭主をモノみてえに扱われりゃ黙ってられねえだろうが。それにな、サリー。もしもアンタがホントにこいつのガキを産んだなんてことになったとしたら――そン時は俺が引き取って育てるぜ?」 「な、何ふざけたこと言ってんのよ……」 「俺は存外大真面目さ。遼二の子供なら俺の子供も同然だ。この世で一等大事な、てめえの命と引き換えてもいいと思えるたった一人の愛する男の子供なら心血注いで育てるさ」 「な、何よ……今度は惚気(のろけ)?」 「ああ、思いっきり惚気だ。だが、事実でもある。俺はこいつと一心同体と思って生きてる。こいつの痛みはダイレクトに俺の痛みだ。こいつの悩みは俺の悩みであり、こいつの幸せが俺の幸せだ。逆も然りだ。俺たちはそうやって一緒に生きてる。それが俺たちの誇りだ」  真っ直ぐに視線と視線を合わせて言い切る紫月の言葉に迷いは感じられない。惚気でも何でもない。本物の覚悟なのだ。  サリーにもそれが伝わったのだろう。特には大声で助けを呼ぶわけでもなく、棒立ち状態のままで紫月から視線を外すこともできずにいた。

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