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極道の姐50

「何故俺を捨てた。散々っぱら愛してるだなんだとほざきながら、結局アンタの目当ては金だったってことか? 方々のカジノで俺が稼ぎ出してやった金を丸ごと持ち逃げしやがって!」 「……何のことか分からんな」 「薄らっとぼけるな! アンタみてえな最低野郎にウツツを抜かしてたと思うと、俺は自分自身の不甲斐なさに腹が立って仕方がねえ! アンタのことは地獄に送っても腹の虫が収まらねえが……まずは金だ。俺を騙くらかして持ち逃げした全額、きっちり耳を揃えて返してもらうぜ!」  冰はそう言うと、スマートフォンを取り出して周の目の前へと差し出した。 「アンタの銀行口座がここにあるってことくらい調べはついてるんだ! 今すぐに金をスイス銀行にある俺の口座に移してもらおうか!」  周のものと思われる銀行のログインページを開いて唐静雨にも確認させた後、彼の目の前へと押し付ける。 「ログインコードを言え! その簀巻き状態じゃ手は使えねえだろうからな。俺が代わりにアクセスしてやる」  ところが、画面を見るなり周はクスッと鼻で笑ってみせた。 「どこで調べやがったか知らんが、俺の隠し口座を突き止めたことだけは褒めてやる」  つまり、銀行自体は合っているということを強調しているのだ。 「そういう俺様な態度! 相変わらずだな、周焔! 俺の情報網をナメるんじゃねえ。そっちが香港マフィアならこっちはここマカオ一の組織に(くみ)してんだ。このくらい調べるのなんざワケもねえさ」  その台詞で、周には冰がマカオのマフィアだと名乗っていることが伝わったのだろう。少しづつ会話を合わせるべく慎重に相槌を返していく。 「ふん、てめえの組織も満更バカじゃねえってことか。だが、生憎だな。あの金ならもう俺の手元にはねえよ!」 「何だと!? ふざけたこと抜かすんじゃねえ! 脳天ブチ抜くぞ!」  手にしていたマグナムを構えて凄みをきかせる。 「まあ、そういきり立つな。俺たちファミリーの間じゃシノギで得たモンは即刻上へ献上するのが掟だ。冰、てめえも裏の世界に生きる者ならそんくらいのことは承知だろうが」  しれっとしながら、さも当然とばかりにそう言い放つ。その言葉に冰はビキりと額に十文字を浮かべてみせた。 「シノギだと……? てめえ……やっぱり俺のことは遊びだったってのか……!」  よほど腹が立ったわけか、これまではロンや静雨にも分かるように英語で話していたのを突如日本語に切り替えると、ワナワナと全身を震わせながら癇癪のままに怒鳴り上げてみせた。 「よ、よくもそんな口が叩けたもんだな……! もういっぺん言ってみやがれ! こん畜生ッ……!」  まるで制御がきかないとばかりに顔を真っ赤にして地団駄を踏む。  突如として聞き慣れない外国語で怒り出した彼に、ロンはワケが分からないとばかりに静雨を見やった。 「おい、いったい何だってんだ。この兄さん、何て言ってんだ?」  通訳をしろとばかりに静雨を急っつく。 「まさかとは思うが……俺に分からねえ言葉でしゃべくって、ヤベえ相談でもしてるんじゃあるめえな?」  ロンにしてみれば、万が一にも冰と周が本当は味方同士で、ここから上手いこと逃げ出す算段でもしているのではと疑ったようである。  だが、日本語が流暢な静雨は『そうではない』と言い、状況を通訳してみせた。

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