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極道の姐56

「いや、しかし紫月も冰も本当によく頑張ってくれた! 風の嫁さんの美紅もロビーにいたロンの仲間たちをバッタバタと倒しちまうなんざ見上げたモンだ。お前らは誰より誇れる立派な極道の姐だ」  僚一が言うと、それに続いて隼も同様だと言って手を叩いた。張もボスの男も、そして周りの側近たちも隼の拍手につられるようにして大喝采となり、誰もがとびきりの笑顔で包まれる。かくして周兄弟と鐘崎を襲った拉致劇は無事に幕を下ろしたのだった。  その後、一同はマカオの中心地にあるホテルへと移動して、二日ほどを過ごすこととなった。拉致された三人の体力回復とロンと唐静雨らの処遇等の為である。  秋の短い陽射しが傾き掛けた頃、周らとは別の一室で静雨がウトウトと目覚めたところだった。 「……アタシ……どうして……ここは?」  うっすらと目を開けると、そこには心配そうに顔を覗き込んでいるサリーの姿があった。 「気がついた? 具合はどう?」 「……あなた、サリーさん……?」  静雨はぼうっとしながらも、突如ハッとしたように瞳を見開くと、慌てたようにガバりとベッドから身を起こした。 「そうだわ……焔! 焔は……? まさか……」  徐々に記憶がはっきりとし出したのだろう。蒼白な表情ですがるようにサリーを見つめた。  静雨が覚えているのは冰が周兄弟を撃ったことまでだ。その後どうなったのか気が気でないといった様子だった。もしかしたら周は殺されてしまったのではないかと思えたからだ。  サリーは切なげに瞳を細めながら言った。 「大丈夫。彼は無事よ」 「本当? じゃあ……今は病院に? 彼、撃たれて怪我を負ったはずだわ!」 「ううん、怪我もしていないから安心して。あれは周焔を助ける為の冰ちゃんの演技だったのよ」 「……どういうこと?」  静雨にはさっぱり経緯が掴めないのだろう。焦燥感いっぱいの心配顔で訊く。 「冰ちゃんは周焔たちを助ける為にわざと彼に裏切られたっていうことにして、あなたたちの元へと乗り込んで来たの。あれは全部彼のお芝居だったっていうわけ」 「お芝居……? じゃあ……じゃあ、あの子が焔と別れたっていうのは……」 「嘘よ」 「嘘……? じゃあ、お金を騙し取られたっていうのも……」 「ん、全部嘘よ。あなたとロンを騙して周焔を助ける為のね」 「そんな……!」  蒼白を通り越して呆然状態の静雨の手を取りながらサリーは言った。 「実はアタシも失敗しちゃったの。遼二の伴侶の紫月が助けにやって来てね。遼二の子を産みたいっていうアタシの計画は見事に頓挫してしまったわ」 「じゃあ……アタシたちの計画は……すっかりバレていて、焔たちの仲間が助けに来たっていうわけ……?」 「そうなるわね。アタシも紫月の姿を見た時は驚いたわ。でも……今は失敗に終わって良かったって思ってる。アタシ、瑛二に裏切られたことが許せなくて自分を見失っていたのよね。それに気付かせてくれたのは紫月だったわ」 「紫月って、あなたがターゲットにしていた鐘崎っていう人の……」 「そう、奥さん。姐さんと言った方が正しいかしら。彼も冰ちゃんと同じで男性だけれどね」  切なげに微笑みながらも、サリーの表情は落ち着いていて、それはつい昨日までに見ていた彼女とは見違えるほどであった。

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