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極道の姐62

「ね、ね、修行ってどんなことをやらされるの? お兄様や鐘崎さんも一緒にやってたってこと? 実戦って……まさか軍隊の訓練みたいな感じなの?」  まるで立板に水の如く質問攻めに遭って、周は思わず苦笑させられてしまった。  今はもう遠き少年の日のことが走馬灯のように脳裏に蘇ってくる。懐かしさに瞳を細めながら周は記憶を辿った。 「まず夏休みには極寒の森の中に連れて行かれて放り出されるんだ。ガキ同士でチームを組まされて、一等近くの集落まで辿り着けば合格点がもらえる。途中で根を上げれば、また次の夏休みには一からやり直しで、前の年の分とその年の分の二倍の訓練が待ってるって寸法だ。逆に冬休みにゃ季節と反対の熱帯雨林に連れて行かれて、同じようなミッションが待ってる。寒い地域では雪と凍傷との闘いだし、暑い所じゃ虫と爬虫類地獄を生き抜かなきゃならねえ。まさにサバイバルさ」 「うわ……過酷そう」 「まあ、ガキ同士といっても俺たちの見えないところでちゃんと大人たちが監視してはいるんだがな。生死にかかわるくらいヤバくなったら救助は来るから本当にくたばる心配はねえわけだが」 「でもサバイバルってことは……食べる物とかはどうしてたの? それに寝るところなんかも」 「冬場は干し肉や缶詰なんかを最初から携帯していくんだが、さすがに水はすぐに尽きる。喉が乾いて雪を食ったこともあったな」 「ええ……!? お腹壊しそう……。寒いと熱出たりとかもあるだろうし」 「最初の内はな。だが、それでしのがなきゃ生きてられねえわけだから。訓練を重ねる内に身体の方がついてくるようになるもんだ。寒いのも辛えが、湿地帯の蒸し暑さも厳しかったな。腹が減って仕方ねえから木に成ってる果物らしきモンをとって食うんだが、慣れねえとそれこそすぐに腹を壊す。その内に魚を獲ることを覚えるわけだ。寝るにしたって地面は虫だらけだから、バナナの皮とかをな、何枚も手折って敷くんだが、小さなガキにゃ寝床をこしらえるだけで一日仕事だ。火のおこし方も一応は教わって行くが、骨が折れるなんてモンじゃねえ。食い物を獲ってくる係と寝床や炊事用の支度を整える係と手分けするんだが、如何せんガキのやることだからな、帰る頃には皆げっそりやつれて骨と皮ってな感じになったもんだ」 「うはぁ……」  まさに絶句である。 「まあそれだけでも地獄だが、ある程度の年齢になると、今度は敵が追って来るってミッションが加わるんだ。もちろんその頃になると俺たちにも武器は支給されるんだが、実弾がすぐ側の木に当たったりしてな。生き抜くと同時に実戦でも勝ち抜かなきゃならねえから死に物狂いだ。もちろん風呂なんか何日も入れねえし、川でワニだの巨大な怪魚だのに怯えながら水浴びしたりな。終いにゃてめえが人間なのか獣なのか分からなくなるくれえで、とにかく過酷だったわ」  周は懐かしそうに笑っているが、冰にしてみれば思わず顔が歪んでしまうくらい辛辣な話である。極道の世界というのは、それほどまでに厳しいものなのかと背筋が凍ってしまいそうだった。

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