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極道の姐64

「兄貴にそれを聞かされて、親父も継母も俺のことを曲がった目で見たことなんか一度もねえって言われて――俺を殴った後で親父が泣いたってことも聞かされてな」 「お父様……が……」 「もちろん、悲しくて泣いたわけじゃねえ。普段はどんなことがあっても涙なんかぜってえ見せねえ親父が身体震わせてたって言うんだ。そんだけ……心底情けなかったんだろうって兄貴がな、そう言ったんだ。兄貴も俺をまがいモンの弟だなんて思ったことは一度もねえって、すげえ真剣な顔で言ってくれてな。俺はその時初めててめえの未熟さに腹が立った。厳しい訓練に出すのも、膨大な知識を身につけさせられるのも、全部親父の愛情だったんだってことが身に染みた。それからだ、訓練にも勉学にも真剣に向き合うようになったのは」  兄に付き添われ地下の倉庫を出て、父の元に謝りに行った時には思い切り抱き締められたそうだ。お前は俺の子だと、正真正銘本物のファミリーだと言って声をくぐもらせた父の懐の匂いは何があっても忘れられないと周は言った。 「そっか……そんなことがあったんだね」  冰もまた熱くなってしまった目頭を押さえながら、愛しい胸の中に顔を埋めて、無意識にしがみついては涙をこぼした。 「お前もそうやって泣いてくれるんだな」 「白龍……うん? だって俺……嬉しくて……。白龍がお父様やお母様、お兄様に愛されてるってことがすごく嬉しくて」 「前にも同じことを言ってくれたよな、冰」 「……え? そうだっけ?」  グズグズと鼻をすすりながら冰が訊く。 「ああ。初めてお前を抱いた時だ。背中の彫り物の話をしたら、お前、今みてえに泣いてくれた。俺が家族に愛されてることが嬉しいと言ってな」  冰は『あ……!』と思い出したように瞳を見開いては涙を拭った。 「そうだったね。あれからもう一年近く経つんだね。何だか夢みたいだよ」 「ん、何がだ?」 「白龍とこうしていられることがさ」  温もりを確かめるように冰は広い胸元に頬を埋める。 「よし、じゃあ夢じゃねえってことを確かめるとするか」  企むように笑った視線が色香を帯びている。もう抱きたいという意味だ。 「ん、うん! 確かめたい。いっぱい……確かめさせて……!」 「ああ、望むまま――」  周は軽々と冰を抱き上げると、そのままベッドへと向かった。 「冰、ありがとうな。こうして俺なんぞの為に涙を流してくれるお前が愛しくて可愛いくて仕方ねえ。それに今日俺たちを助けに来てくれた時の普段とは違う迫力のあるお前も本当にカッコ良かったぜ?」 「い、嫌だな白龍ったら……。あんな図々しい態度しちゃって……白龍にはもちろんだけどお兄様にも生意気言っちゃって……。俺、今考えるとすごく申し訳なくて……」 「そんなことはねえ。押しも押されもしねえ立派な極道の姐だった。お前は俺の誇りだ、冰」 「白龍……。俺、俺も……。白龍が誇り。この世の誰よりも何よりも……大好き……!」 「ああ。ああ、俺もだ」  もうこれ以上言葉はいらない。ずっとずっと永遠に、何があっても俺たちは互いを慈しみ合い信じ合える夫婦だ――!  二人は空が白むまで激しく求め合い、そして互いの肌の温もりに包まれて眠りに落ちたのだった。

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