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極道の姐74

「うふふ、いつか自分のお城を持てた時の為にと思ってね、確保しておいたのよ。まだストックはあるから、冰ちゃん、よかったらビンは持ち帰ってくれていいわよ」  里恵子がウィンクと共に言う。 「え……! よろしいんですか?」 「もちろんよ! 何て言ったって周さんの愛情ですものね!」 「よし、それじゃ改めて乾杯といくか!」 「うわぁ、何だかドキドキしちゃうなぁ。大人の気分だぁ! 乾杯ー!」 「おい冰、飲み過ぎるなよ。こいつぁ、シャンパンと違ってアルコール度が高えからな」  周が老婆心丸出しで過保護にする傍らで、紫月が面白そうにツッコミを繰り出す。 「いいじゃん! 酔ったらそれこそ襲いたい放題! 猛獣氷川の独壇場だ! 今夜は寝かさねえぞー、なんつってー!」 「お! そういう手があったか」  存外大真面目にシミュレーションしてうなずく周に、またもやドッと笑いが湧き起こる。 「ん、ならお前も飲め。俺がガッツリギッチリ独壇場してやる!」  鐘崎も触発されてしまったのか、”酔い潰して猛獣になる作戦”にワクワク顔だ。紫月のグラスにトポトポと酒を注いでは、また新たなボトルを追加する。気前のいい男たちにママたちは大興奮で大はしゃぎである。 「よっしゃ! 今夜は飲むぞー!」 「そりゃいいが、品良くいけよ、品良くな!」 「いんや、今夜は祝いの無礼講だー!」 「そんでもってその後は野獣大会が待ってっぞー!」 「いやぁねえ、もう!」 「周さんも遼ちゃんも二人共エッチなんだからぁ!」 「そりゃ男の甲斐性ってモンだろが! 森崎、おめえも参戦しろ、参戦!」 「おお、その通りだ! 野郎三人でタッグを組もうぜー」  鐘崎と周が里恵子の恋人の森崎の肩を抱いて、旦那衆で盛り上がる。 「おいこら、てめえら! 若えモンばっかで徒党組んでんじゃねえ。俺も混ぜろ混ぜろ!」  僚一までもが身を乗り出して大わらわである。そんな中、冰が強い酒に頬を染めながらニコニコと感激ぶりを口にした。 「クラブって初めて来たけど……ホントに楽しいところなんですねぇ」  グラスを胸前でしっかり抱えて小首を傾げる仕草が素直で何とも例えようがなく可愛らしい。 「冰……あまり可愛いことをしてくれるな。帰るまで待てねえじゃねえか……」  周が真顔でそんなことを呟いている。 「うそ、マジ? もしかここで野獣になっちまうってかー?」  紫月に冷やかされて周が腕組みをしながら鼻を膨らませてみせる。 「うむ、それもいいかもな」 「いやだぁ、周さんったら!」  キャハハハと賑やかな笑いが巻き起こり――とびきりの笑顔と最高の仲間たちに囲まれながら、眠らない銀座の夜が更けていったのだった。 極道の姐 - FIN -

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