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チェインジング・ダーリン17

 それを受けてバスの前方を走らせていた側近たちに周からの指示がなされる。 『全車、速度を落としてバスに追い抜かせろ。そのまま距離を取りつつ見失わないよう追跡を続行する』  そうしてバス、周ら、警察車両という並びを保ったまましばらく走り続けた。  バスが高速を降りたのはその十分後のことだ。  その頃、鐘崎たちの方でもちょっとした騒ぎが起こっていた。犯人に拘束された老人も実にその騒ぎが発端となってのことで、バスの車内は戦々恐々とした空気に包まれていたのだ。  事の起こりはパトカーのサイレンが聞こえてくる少し前へとさかのぼる。  老人は孫と思われる小学校に上がったくらいの年頃の少年と一緒に内覧会に来ていたらしく、目当ては少年の母親にクリスマスプレゼントを選ぶということだったらしい。ところが会場に着いた途端に騒ぎに巻き込まれ、挙句はバスに押し込められて移動中である。幼い少年には事の重大さが理解できなかったようで、早くプレゼントを選びに店に戻りたいとぐずり出したのだ。  老人は必死になだめたが少年は口を尖らせて膨れる一方である。終いには『じいちゃんはママのことが嫌いなの?』と騒ぎ出して犯人たちを刺激してしまう事態となった。  『ガキを黙らせろ!』と怒号を飛ばされて少年の頭まで軽く小突かれる始末に、しばし車内は騒然となった。  鐘崎らのいた席からはかなり離れていた為、容易には手が出せずに見守るしかなかったのだが、冰にとっては老人と幼い少年が過ぎし日の黄老人と自分の姿にダブって映ったようであった。ソワソワとしながら気が気でない様子に鐘崎と森崎にも緊張が走る。大声で威嚇されて泣き出してしまった少年に腹を立ててか、犯人の一人が老人の胸倉を掴んで銃を突き付けたのだ。運悪くちょうどその時に追い付いてきた警察車両に囲まれてしまい、憤った犯人が窓を開けて発砲。老人はその後すぐに座席に突き飛ばされるようにして解放されたが、婦人方は悲鳴を上げて騒ぎ出すしで一触即発の事態に陥っていった。  未だ泣き止まぬ少年を放っておけずに冰が立ち上がりかけたのを制して、鐘崎が少年の側へと向かい、身を丸めて震えながら犯人たちに懇願した。 「こ、この子供は私共大人が預かって静かにさせますんで……どうか勘弁してやってください!」  なるべく顔を見せないように極力小心者を装って頭を下げ続けたことで、ようやくと納得してもらうことができ、犯人たちは老人と少年を鐘崎に押し付けて舌打ちするに留まった。むろんのこと鐘崎のそれは演技であるが、今は地を出して正体を悟られては余計にややこしいことになるのは必至である。とにかくは子供の安全だけでも確保しなければと思っての判断であった。

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