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漆黒の記憶14

「――そうか。そういう考え方もあるな……。情けねえ話だが俺は目の前のことを受け止めるだけで目一杯だったからな。そこまでは頭が回らんかった」 「それで当然だろう。俺だってもしも紫月に同じことが起こったらパニくっちまって頭が真っ白だろう。お前は冷静に受け止めている方だ」  そんなふうになだめてくれる親友がたいへん心強く感じられていた。 「今回、冰が記憶を失くしたきっかけは――強風に煽られて飛んできた物に当たって怪我を負ったってところから始まっている。運転手の話では一緒にいた真田を庇ったということだったが、真田本人も一瞬の出来事だったんでその時の状況はよく覚えてねえかも知れんが、もう少し詳しく訊いてみるか。外傷という点では大したことはなく、検査でも異常は認められなかったということだ」 「とすると、怪我からきているものではなさそうだな。やはり真田氏に当時の状況を可能な限り辿ってもらうのが良さそうだ」 「ああ。早速訊いてみよう。とにかく邸の方へ来てくれ。冰にも会って欲しいしな」  周は二人を連れて邸の方へと戻った。すると、真田の方でも話したいことがあったようで、主の姿を見るなり飛んで駆け寄って来た。 「坊っちゃま! ああ、鐘崎さんと紫月さんも……! いらっしゃいませ」  どうやら周の仕事が終わって邸に帰って来るのを待ちわびていた様子である。 「ただいまお茶を……。その前に坊っちゃま、昨日は気が動転しておりましたのですっかり忘れておったのですが、冰さんが私を助けてくださった時におっしゃったお言葉を思い出しまして……」  それは周にとっても大層興味をそそられることである。もとい、それが訊きたくて真田に尋ねようと思っていたわけだから有り難いタイミングであった。 「実は……あの時、傘立てが風に煽られて落ちてきた時でございますが、冰さんは私を庇ってくださりながらこうおっしゃったのでございます。『じいちゃん、危ない!』と」  普段、冰は真田に対してそういった呼び方をすることはない。 「お前のことをじいちゃんと言ったのか?」 「おそらく咄嗟のことでそうお呼びくださったのかと。私もこの通りの歳でございます故」  真田としては高齢イコールじいちゃんと呼ばれたのだという認識でいるようだったが、周は別の見解を思い浮かべていた。 「じいちゃんか……。それはおそらく真田のことじゃなく黄のじいさんのことかも知れん。とするとやはりカネの言う通り、あいつがガキの頃に今回と似たような経験をした可能性が考えられる。じいさんが危険な目に遭いそうになって冰がそれを庇った……とかだ」 「その時の記憶が咄嗟に蘇ったのがきっかけでガキに戻っちまったとすれば、冰の中では相当大きな衝撃だったのかも知れん」  鐘崎もその仮説にうなずいてみせる。

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