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漆黒の記憶38

「……ん、見たい……。でも見てるだけじゃ足りないかも……」 「だったらどうする?」 「したい……。白龍のを……その……俺も一緒に」 「自慰を手伝ってくれるのか?」  コツリと額を合わせ、視界に入りきらないほどに近い位置でとてつもなく淫らな視線が誘っている。 「や……、その言い方……頭も……身体も全部。俺、おかしくなっちゃいそう……」 「ああ――おかしくしてやる」 「白龍……!」  ゾクゾクと腹の底から湧き上がるような言い知れない波が指の先、髪の一本にまで疼き広がっていくようだ。  周は無意識にしがみついてくる華奢な手を取ると、既に硬くなった自らの雄に導いては握らせた。 「……ッあ! 白龍……」 「よく覚えておけ。例えどんなことがあっても、記憶が失くなったとしても。この手の感触だけは忘れるな。これはお前のもんだ。お前だけの」 「ん……、うん! 大好き……大好き白龍!」 「ああ。俺もだ。お前のすべてを――」  愛しているよ――!  睦み合い、もつれ合い、それこそ我を忘れるまで強く激しく求める気持ちのままに奪い合い……いつのまにか夜が白々と次の未来を連れてくるまで二人は共に溺れ合ったのだった。  そう、二人だけの世界で互いだけをその瞳に映して。獣の如く本能のまま、身も心もひとつに結ぶべく愛しみ合ったのだった。  冰の記憶喪失という危機から始まった衝撃の出来事であったが、無事に記憶が戻った今――これまでよりも深く強く二人を結びつける結果となった。 「もしかしたらこれは黄のじいさんがくれたプレゼントだったのかも知れん」 「じいちゃんからの?」 「あの頃、心のどこかで幼かったお前と暮らしてみたいと思っていた俺への――。そして、お前を残して香港を去ることを迷っていた俺への――な?」 「白龍……」 「じいさんに会いに行くか。改めて今こうしてお前と一緒にいられることへの感謝を伝えたい。幼い日のお前との時間を過ごさせてくれたことへの礼もだ。そしてこれからも見守ってくれと」 「白龍、ありがとう。ありがとうね、本当に……! 俺もじいちゃんに報告したい。俺は今、元気で漆黒のお兄さんと幸せに暮らしていますって」  激しく睦み合った後にはあたたかくやさしい気持ちに包まれる。そんな時を共に過ごせる幸せを噛み締めながら、二人は出会った香港の街へと夢を馳せるのだった。  黄老人が静かに眠る香港の街はきっといつでも変わらずにそこにいて、二人を見守ってくれるだろう。そしていつでもあたたかく迎えてくれるに違いない。  日を追う毎に早くなる日の出が新しい季節を運んでくるように、周と冰にとってもより一層絆が深まった時が訪れようとしている。  二人が共に暮らし始めてから二度目の――春浅き頃のことだった。 漆黒の記憶 - FIN -

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