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三千世界に極道の華3
そうしてもう数軒を見て回った後、それぞれが買った荷物を車に積み込んで、ティータイムをするべく紫月ご贔屓の――例のケーキが美味しいホテルラウンジへと向かうことになった。そのまま車で移動してもよかったのだが、距離的にも近いことだし夕暮れの銀座を歩くのもオツだということで、一同は地下の駐車場から徒歩で移動することに決めた。
事態が一変したのはその直後だった。
地上へと出る為のエレベーターに他の客はいなかったが、紫月ら全員が乗り込んだすぐ後から杖をついた老人を支えるようにして中年の男がやって来たので、親切心から彼らの為にと扉を開けたまま待っていた。二人はたいそう喜び、深々と頭を下げて礼を口にした。そこまでは良かった。
が、扉が閉まると同時に全員が意識を失う一大事となってしまう。見るからに人の好さそうな老人と中年の二人連れが強力な催眠剤を放ったからだった。
「……っそ! 紫月さん、冰さ……ッ」
如何な百戦錬磨の源次郎であっても、突如大量のスプレーのような物を撒かれて、さすがに防ぎ切れなかったというところか。それでも意識を失う直前には春日野と共に紫月と冰を庇うように懐に抱え込む形でその場に崩れ落ちたのだった。
一方、周と鐘崎の方では待ち合わせの時刻になっても一向に姿を現さない嫁たちに気を揉んでいた。
「……ったく、何処をほっつき歩っているんだか。しようのねえ奴らだな」
「おおかたレイさんの買い物に振り回されているといったところだろう。えらく楽しみにしていたようだしな」
「まあお前のところの源次郎氏と春日野がついてくれているからな、心配には及ばねえだろうが――」
二人は喫煙スペースで煙草をふかしながら、もう少し待つことにした。悠長に構えていたことを後悔することになろうとは、さすがの彼らにも予測できなかったというわけだ。
「それにしてもいい加減遅くねえか?」
「ああ、もう四十分は過ぎている。いくらなんでも源さんから連絡が入っても良さそうなものだが……」
いつもならば遅れそうだと分かった時点で即刻連絡がきそうなものだが、今回はレイと倫周というゲストが一緒である。仮に彼らの買い物が長引いていたとすれば、急かすようなことになってはいけないとの配慮からか、源次郎も連絡を入れることを躊躇しているのかも知れない。
「仕方ねえ。紫月の方にかけてみるか」
鐘崎はスマートフォンを取り出すと、紫月へとコールを入れた。
だが繋がらない。
「おかしい……。出ねえな」
「一之宮の携帯か?」
「ああ。留守番電話にも繋がらねえ」
それならばと今度は周が冰あてにかけたが、やはり繋がらないようだ。
「何かあったのか……」
鐘崎が源次郎と春日野にもかけてみたが、どれもこれもコール音はすれども繋がらない。さすがにおかしいと思った時には既に彼らは敵の手中であった。
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