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三千世界に極道の華41
状使い役の番頭が無事に戻っては来たものの、倫周は外に残ることとなった。応援部隊を潜り込ませるのに変装用のメイクなどを手伝う為である。一度外に出られたので、自前のメイク道具なども抜かりなく持ち込むことができる。残された紫月らにとっては準備が整うまではここにいる皆で何とかしのぐしかないわけだが、そうしている間にもいつ何時無法者たちが殴り込みにやって来るかも分からないという戦々恐々の事態が続いた。
「とにかく店を閉めるわけにもいかねえ。こっちが防御体制を取れば、敵の思うツボだろう。これまで通り何ら変わりなく客を迎えて、上納金の為に必死だってなふりを通す方が良さそうだ」
「皆さん、申し訳ない……」
主人はハラハラとした面持ちで恐縮していたが、ここは皆で一丸となって踏ん張るしかない。そんなわけで、次の日からも普段通りの営業を続けることに決めたのだった。
事が起こったのはその日の夜のことだった。
予約もなしにいきなり茶屋にやって来て花魁を買いたいという客が訪れたのだ。何を隠そう敵方の参謀の男である。早速探りを入れにやって来たのだ。
主人の伊三郎も彼の顔には覚えがなかった為、客として迎え入れることをおいそれとは断れない。だが、見るからに一物 含んでいそうな危うい雰囲気に、座敷に通すべきかどうか迷っていた時だ。常連の丹羽が知り合いだという一人の男を連れてやって来た。
「いやぁ、三浦屋のご主人! 先日のお約束通り知人を連れて参りましたぞ。予約の方は番頭殿にお伝えしておりましたが、遅れて申し訳ない!」
丹羽の連れだという男は粋な着物姿で、体格も立派な艶やかなオーラを持った男のようだ。だが、番傘をさしていて顔はよく見えない。それでも信頼のおける丹羽が連れて来たわけだから、危ない者ではないのだろう。
「こ、これはこれは丹羽殿!」
主人の方もそんな予約があった覚えはないのだが、この胡散臭そうな一見 の客を断るのにはこの上ない蜘蛛の糸といえる。すがるような思いで上手く話を合わせんと、喜んで丹羽を迎え入れた。
「お客様、誠に申し訳ございませんが今宵はご覧の通りご先約で埋まっておりますゆえ……」
丁寧に断りを入れたが参謀の男は引き下がってはくれなかった。
「冗談じゃねえ! 今の今まで先客があるなんざひと言だって言わなかったじゃねえか! ここの茶屋は客を選ぶってのか!?」
ドスの効いた声で威嚇してみせる。
「そ、そんなつもりはございません! 今宵は本当にご予約がございましたものですから……」
主人は慌ててオタオタとしてしまっている。それを見た丹羽の連れの男が、それまでさしていた番傘を傾けて、じろりとその客に視線をくれた。今までは傘に隠れて見えなかったが、鋭い眼力が印象的なとびきりの男前である。彼のような人物が艶やかな花魁を侍 らせる図を想像しただけで、思わず胸が高鳴りそうなくらい絵になるだろうと思わされた。
「おい、あんた! 先に花魁を買ったのは俺だ。しのごの言わずに引き取ってもらおうか」
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