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三千世界に極道の華75
「そうか。さすがは芙蓉の女将にまでなったあんただ。厳しい戦いになるかも知れんが、力を貸してもらえるか?」
僚一は女の白魚のような手を取って穏やかに微笑み掛けた。
「蓉子でいいわ。もちろんどんなことでも協力する!」
女は形のいい大きな瞳をキラキラと輝かせて、生きた視線で真っ直ぐに僚一を見つめた。
「そうか。ありがとうよ、蓉子」
「ううん、アタシの方こそ! ここであの鐘崎組の組長に出会えたなんて奇跡だもの! 四郎兵衛様やお父さんたちもこのことを知ったらどんなに励みになるか知れないわ! それで……アタシは何をすればいい?」
頼もしい言葉に僚一も瞳を細めてうなずいた。
「今しばらくはヤツらの思い通りに事が運んでいると思わせておきたい。その間に俺たちの方で敵の戦力を削ぐべく片付けたいことがある。俺がここに張り付いていられない間、あんたには息子の面倒を見てもらいたいんだが――頼めるか?」
僚一は息子が非常に危険なDAという薬物を盛られたことを打ち明けると、当面は敵から渡されるその薬を盛り続けているように見せ掛けながら、密かに息子の世話をしてやって欲しいと頭を下げた。
「あの薬……そんなに厄介な物だったのね……。分かったわ、ご子息のことは任せてちょうだい。アタシが責任を持ってお世話をさせてもらう!」
「ありがとうよ、蓉子!」
「ううん、アタシこそ!」
そんな話をしていると、邸の玄関口が開く音がして、数人の男たちがやって来た気配を感じた。
「アイツらだわ! きっと……アタシがあなたの息子さんをモノにできたかどうか確かめに来たんだわ!」
蓉子は急いで押し入れの襖を閉めると、そこに風呂先屏風を立てて部屋の隅にあった座布団やらを雑多に積み上げた。わざと部屋を散らかして容易には押し入れに近付けないようにする為である。それと同時に急ぎ纏っていた着物を脱いで襦袢姿を晒すと、
「僚一さん、あなたも早く脱いで!」
手際よく僚一の羽織っていた着物を脱がせて、慌てて布団の中に引き入れた。
「いい? あなたには催淫剤が盛られていることになっているの! とにかくアタシを求めている現場をアイツらに確認させなきゃならないわ! 出来るだけ調子を合わせて!」
蓉子は布団に包まって僚一の広い背中に腕を絡み付け抱きついた。
「よし、分かった。そんじゃちょいと失敬するぜ」
僚一も彼女の意を汲み取ると、その細い肢体に馬乗りになっては彼女を抱き締めた。
そっと部屋の障子が開かれ、男たちが中の様子を覗き込んでくる気配を察知する。どうやら相手は二人か三人連れのようだ。聞き耳を立てながらこちらの様子を窺っているのが分かる。蓉子は彼らに聞かせるようにとびきり妖艶な色っぽい嬌声を上げてみせた。
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