563 / 1208
三千世界に極道の華89
外に出ると幹部の清水が組の若い衆らと共に迎えのワゴン車を従えて待っていた。
「親父さん、若、姐さん! それに皆さんも本当にお疲れ様でございました!」
腰を九十度に折って組員たちが一斉に出迎える。
「お邸の方ではご帰還の膳をご用意してございます。どうかごゆっくりお疲れを癒されてください」
「ありがとうよ、清水! 留守の間、よく組を守ってくれた。皆を代表して礼を言うぞ」
紫月らが拉致されてからかれこれひと月になろうとしている。その間ずっと組を守ってくれた清水に長の僚一から厚い労いの言葉が掛けられる。
「勿体のうお言葉でございます。皆様ご無事で何よりです!」
バカンスで来日していたレイ・ヒイラギと息子の倫周も拉致されてしまったことで、彼らが滞在していたホテルなどの解約もすべてこの清水が執り行ってくれたらしい。
「ヒイラギ様たちにお過ごしいただくお部屋も鐘崎の邸の方でご用意してございます。ごゆっくりお疲れを取っていただけたら幸いです」
まさに痒いところに手が届く清水の手配ぶりに、レイと倫周も心からの礼を述べたのだった。
一方、周と冰の方にも側近の劉が筆頭となって手厚い迎えが用意されていた。家令の真田も出向いて来ていて、彼は二人の主人を目にするなり両手放しで喜んでは嬉し涙を真っ白なハンカチで拭いながら出迎えた。そんな一同を讃えるかのように春の夕陽がビルの谷間を縫って眩しいくらいに皆を照らしていた。
「うっはぁ! ひっさびさの太陽だ! つか、今って夕方だったんだな!」
「ホント! 一ヶ月ぶりで空を見ましたねー」
紫月と冰がとびきりの笑顔で背伸びをしている。それを見守る鐘崎と周もまた日常が戻ってきた安堵に互いの手と手をがっしりと握り合っては瞳を細めたのだった。
「今回は俺の油断から皆には多大な迷惑と心配を掛けちまってすまねえ。その間、紫月を守ってくれた親父さんや綾乃木さん、それに皆んなにも心から礼を言わせて欲しい。この通りだ」
鐘崎が深く頭を下げると、皆はとんでもないといったように一斉に首を横に振った。
「一番大変だったのはカネ、お前だ。DAなんていう最も危ねえモンを食らわされて……よく復活できたと賛辞を送るぜ。本当によく頑張った」
ともすれば誰もが鐘崎同様に危険な目に遭っていたかも知れない。決して彼一人の油断というわけではないし、逆に彼一人だけとんでもない目に遭わせてしまったと皆の方が恐縮していた。
そんな一同を横目に、
「まあでもこうして皆んな無事に元の世界に戻って来れて一安心だよな! けど……この一ヶ月ずっと一緒に生活してたせいか、今日からまた別々の家に帰ると思ったら……ちっと寂しい気もするよなぁ」
紫月がそんなことを口にすれば、冰以下全員が同様といったふうにうなずいては互いを見合った。
「なに、今夜一晩ゆっくり疲れを取ったらまた明日にでもすぐ会いに行くさ!」
周が頼もしげにそう言えば、
「おお! だったら明日からまた買い物の続きに繰り出すとするか!」
レイが張り切り顔をしてみせる。
「ええッ!? レイちゃん、まだ買うのー? っていうか行動力あり過ぎ! 普通ちょっとは休むとか英気を養うとかあるでしょー? 五十過ぎのオジサンとは思えないよー!」
「バカタレ! だれが五十だ! 俺 りゃー永遠の二十歳 だって常々言ってんだろうがー」
「はいはい、そうでござんしたね! お若い父上を持って僕は幸せでござーますよ!」
息子の倫周に呆れられて、皆からはドッと笑いが巻き起こった。
ともだちにシェアしよう!