569 / 1190

三千世界に極道の華95

「本日のお茶はマリアージュ・フレールの季節限定さくら茶をお淹れしました。苺ショートにも合うと思いますよ」  清水が気を効かせて昨日皆を迎えに出た時に調達してきたそうだ。 「わっはぁー! 剛ちゃんサンキュなぁ!」  姐さんの紫月に大喜びされて清水も嬉しそうだ。『剛ちゃん』と、こうして下の名前でフランクに呼んでもらえることも清水にとっては光栄なことだった。 「姐さんにそう言っていただけると皆様がご無事でご帰還された実感が湧きます。やはりこうしてお顔を拝見できる日常が何よりと心に沁みますね」  そんなふうに言いながら淹れたての茶を次々と注いでくれる。皆はしばし豪華なティータイムを満喫したのだった。そんな中で昨日の敵との戦いが見事だったという話が持ち上がり、冰などは本当に凄かったですと感動の様子で目を輝かせていた。 「紫月さんたちの剣術がホント凄すぎて、映画かアニメの主人公のようでしたよー!」  真剣での生の斬り合いなどそれこそ映画かドラマの中でしか見たことがないだけに、より衝撃的というか感動的だったようだ。 「そういや俺らの飛天! 一度も成功したことなかった割には、昨日は上手くいったってのが奇跡だよなぁ」  紫月が暢気な感心顔でケーキを頬張っている。鐘崎と周も同じ思いのようだ。 「確かにな。高坊の頃は何度やっても上手くタイミングが合わなくて苦労した記憶しかねえわな」 「ああ。だから昨日一之宮があんなに高く飛び上がったのを見て驚いたんだ。以前は高さが足りねえっつって失敗のし通しだったのにな」  しかも十数年ぶりにトライしたにしては一発でタイミングが合ったことに驚きを隠せない。不思議顔の三人を横目に、僚一と飛燕がその理由を教えるべく話に割って入った。 「あの頃おめえらが編み出そうとしてた技は実戦用だったからな」 「実戦用?」  飛燕の説明に紫月がポカンと口を開けて首を傾げる。その先は僚一が続けた。 「まあ自覚のねえままに考えた技なんだろうが、あれは命が懸かった真剣勝負を目の前にした時に初めて本量を発揮できるタイプの技だったからな。当時お前たちが何度やっても成功しなかったのは、それが練習だという思いがあったからさ」 「おめえらが考えてたあの技はな、紫月が猛ダッシュして焔と遼二坊の肩を踏み台にする瞬間が要になるんだ。あの頃は紫月が二人の肩を踏み切る時に遠慮が生まれていた。頭のどこかで二人に申し訳ねえという思いがあって体重を消すタイミングがほんの一瞬ずれていたんだ。そうするってーと、踏み込む瞬間の脚力のバネが生かしきれずに飛び上がっても高さがでねえ――とまあ、そんな具合だったのさ」 「だが昨日は命が懸かった実戦だ。踏み台にする二人に遠慮する気持ちよりも敵を倒すことに意識が働いて、本来の技の力が存分に発揮されたというわけだ」  僚一と飛燕から交互交互にそう言われて、三人は目から鱗が落ちたかのように唖然としながら互いを見合ってしまった。

ともだちにシェアしよう!