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孤高のマフィア2

 当時は独身だった彼だが、地元に帰って家業を継いでから割合すぐに結婚したのだろう。子供の年頃を見れば聞かずともそんな経緯が窺えた。  しばらく経っても男が家族を紹介する気がないようなので、またもや気を利かせた周がそれとなく話題を変えた。 「奇遇だが元気そうで良かった」 「はい、あの……自分もまさか社長にお会いできるなんて思ってもみませんでしたので……光栄です」 「恐縮なことだ。それじゃ我々はこれで失礼させてもらうが、元気でな」  家族も手持ち無沙汰のようだし、なんとなく雰囲気からして邪魔になってはいけないと思い早々に切り上げようとしたが、どういうわけか男は慌てたようにして引き留めの言葉を口にした。 「あ、あの……っ!」 「――?」 「あ、すみません。お忙しいですよね……」 「いや、構わんが」 「……お引き留めしてすみません。会社の場所、移られたんですね。実は今回久しぶりで東京へ出て来るからと思ってネットで調べたんです。懐かしい思いもありましたし……外から社のビルだけでも見られたらと思いまして」  そんな思いからネット検索をし、そこで初めて社の場所が移転したことを知ったのだという。 「お陰様でな。今は汐留だ」 「ものすごく大きくなられていて驚きました。社員の方も増えられたんでしょうね。自分が勤めていた頃の同僚とか……まだ居るのかな」 「そうだな。以前の社屋から付いてきてくれた者も多い。おそらくお前さんが勤めてくれていた頃の同僚もいるだろう」  実のところ、この香山以外の社員は寿退社をした女性たちを除けばほぼ全員が今も勤めてくれているのだが、そうはっきり言えば辞めた彼に対して気を悪くさせかねない。よって、このように言葉を濁したわけだ。 「そ、そうですか。ヤツらどうしてっかな。元気でやってるといいんですが……。たまには会いたいな……」  当の香山の方はといえば、自分から引き留めた割にはあまり核心のない話ばかりを振ってくる。見たところ必死で話題を探そうとしているようにも思えた。  まあ久しぶりの再会であるし、当時は経営者と社員という立場だったわけだから、ある種の緊張があるのかも知れない。周も当たり障りのない返事を返していたが、ここは人の往来も多い飲食店の店先だ。そろそろ引き上げ時であろう。  行き交う人の流れの邪魔にならないようにと道端に避ける仕草を繰り返す周と李の仕草を見ていた香山の方も、さすがにこの場で長い立ち話はまずいと感じたようである。ただ、避ける度に人の流れからかばうようにして周が一緒にいる男の肩に触れる仕草を不思議に思ったのか、 「あの……そちらは?」  冰を見やりながら男がおずおずとした感じで訊いてきた。 「ああ、こいつは俺の家族だ。今は秘書をしてくれている」  周が紹介すると同時に冰がにこやかにしながら「初めまして」とお辞儀をすると、何故か彼はホッとしたように肩を落としてみせた。 「ご家族ですか。どうも初めまして。弟さんかな? 社長にはたいへんお世話になりました」 「あ、いえ。こちらこそお世話になっております」  冰が律儀に返したが、正直なところそれ以上は話題も続かない。連れの子供たちがぐずり出したのを機に香山一家とはその場で別れることとなった。

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