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孤高のマフィア26

「……やられてしまったようですね。白龍がくれた腕時計が見当たりません」 「腕時計?」 「ええ。俺に何かあった時の為にって白龍が持たせてくれているものです。GPSが入れてあって現在地が分かるようになっているんですが……」 「それが盗られちゃったっていうこと?」 「そのようです。財布とスマートフォンも見当たりませんが……ある意味当然といったところでしょうか。まさかとは思いますけど腕時計の機能にまで気付いて取り上げたとなると、相手は素人ではないかも知れませんね」  冰は裏社会という点では素人同然だが、周と暮らすようになってからは様々な事件に遭遇してもいる。本人も無意識の内に、ある程度どんなことが起こっても冷静に事態を受け止めることが身に付いてしまっているようだ。 「あら……そういえばアタシの時計も……指輪やイヤリングもないわ……。それに帯留めも……!」  里恵子が身を弄りながら驚きの声を上げる。 「周さんと鐘崎さんに戴いたキーリングも見当たらない!」  ということは貴金属の類が根こそぎ持っていかれたということか。冰は更なる事態を冷静に分析していた。 「目的が換金だとすればGPSに気付いて潰された可能性は低いでしょうか。拉致の目的はお金……か。それとも……」  念の為、里恵子に拉致されるような心当たりがないか訊ねるもすぐには思い当たらないという。 「瑛二も一応組を構えている立場だから、もしかしたら瑛二の関係かも知れないけれど」  だが、拉致に遭った順番から考えると里恵子よりも冰の方が先である。森崎や里恵子が目的ならば、順番としては逆になるはずだ。 「巻き込まれたのは里恵子ママさんの方で、犯人の目的は俺、もしくは周の可能性が高いかも知れません。昨夜、化粧室にママさんが来てくれたのは俺の様子を見てくれる為だったわけですよね?」 「ええ……。周さんが心配そうにしていらしたから、それならアタシが行って見てきてあげるわっていう話になって」 「だとすれば目的は俺か周で間違いないでしょう。身代金が目的であれば既に犯人から周に連絡がいっているはずです」  それならばしばらくは待機しかなかろうか。 「このビールケース……メーカーは有名な日本製ですね。ということはこの場所はまだ国内の可能性が高い。犯人は海外絡みではないということか……」  冰はこれまでも二度ほど拉致に遭ったが、いずれも香港やマカオなどへ連れ去られるという事案だった。だが、今監禁されているこの場所はどうやら空の上という感じではなさそうである。揺れもなければ飛行機特有の騒音もしない。というよりも微かに聞こえてくる横断歩道の信号音からして日本であることは間違いなさそうだ。 「時計が盗られた上に窓も無し……か。あれからどのくらい時間が経ったのかも分からないけど、今回は海外の可能性は低い……。とすればやっぱり白龍が目当ての人質なのか……」  冰が考え込んでいると、遠くの方から誰かがやって来る物音が聞こえてきて、二人は咄嗟に身構えた。 「ママさん、俺の後ろへ!」  冰は里恵子を自分の背に隠すようにして固唾を呑む。扉が開くといかにもチンピラといった雰囲気の男が顔を出して、暢気に笑いながら話し掛けてきたのに驚かされるハメとなった。 「よう、お二人さん! 気が付いてたのか! おっはようさんー!」  なりはチンピラだが恨みつらみといったような敵意は感じられない。話している言語も日本語だ。拉致犯というにしてはそぐわないほどの親しげな素振りだが、それに加えて男からはこちらを気遣うような言葉が飛び出して、ますます驚かされることとなった。

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