624 / 1175

孤高のマフィア51

「き、貴様……ッ! 何をしやがった……さっき……カ、カードを切った時に何か仕込みやがったな……!?」 「仕込むだなんてとんでもない。ただ運が僕に味方してくれたというだけですよ」 「ンなわけあるかッ! こんな……こんな……だいたいファイブカードにしようだの親を交代しろだの……てめえは詐欺師だろうが! こ、ここがどういう店か知らねえのか! 俺らに喧嘩売ろうってんなら命の保証はねえぜ!」  半狂乱で騒ぎ立てるディーラーを抑えるようにして愛莉の男が手下たちを連れて乗り込んできた。 「兄さん、この騒ぎはいったいどういうこった!」  冰の腕前に興味はあるものの、こんな騒動を起こされてはさすがに庇い切れないとばかりに目を吊り上げる。ところが今度は今の勝負を見ていた大陸のマフィアらしき面々が仲裁に入るようにして続々と集まって来た。 「まあまあ、とにかく落ち着きなって。ところで旦那、例の話だが――この若い御仁で間違いねえな?」  つまり、冰と里恵子を売り渡すという例の約束である。 「よければ俺のところで預かりたいんだが構わねえかな? これからすぐにでも契約を交わしてもらえるってんなら当初の倍でどうだ」  どうやら今の勝負を見ていて冰の腕前に興味を示したようだ。約束していた値の倍額で買い取りたいということらしい。  冰の件では一番高い値をつけた先に売り渡すという話になっていたらしく、他のマフィア連中に先を越される前に早々に商談を決めてしまいたいらしかった。  だが、拉致犯の男にしてみても冰を彼らに売るのをやめて、自分たちの金儲けに使いたいと思っていた矢先である。当然素直に『うん』と言うわけにはいかなかった。 「いやぁ、その件だが……ちょっと待っちゃくれねえかな。こっちもいろいろと手違いがあってな、この話は一旦白紙に戻してもらうつもりだったんだわ」 「何だと!? そいつぁまたえらく話が違うじゃねえか。まさか値を吊り上げようって魂胆かッ!?」  一人がゴネ始めると、彼とはまた別の組織のマフィアがすかさず参戦に割って入ってきた。 「だったら俺のところは三倍だ。それで文句はねえだろう」 「何を横から! それならこっちは四倍だ!」  次第に一触即発という危うげな雰囲気になっていく。冰の腕前を巡って売る側と買う側の間で争いが始まらんとしている。まさに企み通りといえる展開となっていった。  ここで取っ組み合いの騒動でも始まれば、いよいよ好機である。騒ぎに乗じて店を出られさえすれば、後はタクシーを拾って逃げ切ればいい。寝泊まりをしているラブホテルとの行き来の間に見た車窓からの風景で、今いるこの街が九州にある大都市だということは理解していたし、大通りに出ればタクシーは山と走っているだろう。冰はこっそりと里恵子の手を掴むと、いつでも走り出せるようにと合図を送るのだった。  ところが――だ。さすがにフロア内で揉めるのもまずいと思ったわけか、愛莉の男が場所を事務所に移して話し合おうと言い出した。

ともだちにシェアしよう!