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謀反10

「クソ……! 嵌められたか……ッ」  向かって来る男たちは明らかに同業者だ。決して心配して様子を窺いに駆け寄ってくれた通行人などではない。  周は応戦せんと車外へ出ようと試みたが、その瞬間身体中に激痛を覚えてクラリと目眩のようなものに襲われた。事故の衝撃のせいだろう。気持ちの上ではしっかりしているつもりでも、肉体的には相応のダメージを受けていたのだ。 「ク……ッ、カネ……」  脳裏を過ったのは親友の鐘崎の顔だ。  周はおぼつかない手で懐からスマートフォンを取り出すと、緊急事態が起きた時の救援メッセージを送ろうと試みた。だが、やはり思ったように指が動いてはくれない。震える手で画面をスワイプするのが精一杯であった。  ――と、次の瞬間。側面の窓ガラスを叩き割る衝撃と共に後部座席のドアが開けられた。施錠が外れされたのだろう。そう思うだけの意識はあれど、身体がいうことをきかない。やっとの思いで振り返った時には既にスタンガンの餌食で気を失ってしまった。 「お! 良かった……。兄貴、ノビちまってますぜ?」 「助手席は李狼珠だ。こいつが周焔で間違いねえな。急いで担架に乗せろ! 扱いは雑にするな。周焔に死なれたんじゃ元も子もねえ」 「兄貴、例の薬はどうします? 周焔が意識を取り戻す前に打っちまった方がいいんじゃねえですかい?」 「DAを打ち込むのは後だ! それよりスマートフォンを探して置いていくんだ! GPSを辿られたら厄介だ」 「それが……探してるんですがスマートフォンが見当たりません」 「そんなわけあるめえ! 胸の内ポケットあたりに入ってるはずだ!」 「全てのポケットを調べましたが見当たらないんです! 周焔はスマートフォンを所持していないんでしょうか?」  遠くの方から事故に気がついて一人また一人と人々が騒ぎ出す気配が感じられる。 「チッ……! 管理は全部李にでも任せてるってのか……。まあいい。野次馬が寄って来る前にズラかるぞ!」  驚くことに男たちが逃走の為に用意してきた車は救急搬送車を装ったものだった。いわゆる国内の救急車とは多少形が違うものの、外からパッと見ただけでは見分けがつかないような代物だ。これならば事故後に駆け付けた緊急車両と間違えるだろうし、通りすがりの誰かに本物の救急車を呼ばれるまでの時間も稼げるだろう。実に用意周到といえる。男たちは周を担架に乗せると、急いでその場を後にして行った。  汐留の冰の元に事故の連絡が届いたのはそれから二時間余りが経過した頃であった。既に日付けもまたいでいる深夜未明、本物の救急車で近くの病院に搬送された李と運転手の宋の入院を知らせる一報であった。

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