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謀反38

「どうしました!?」 「いや、大丈夫だ。少し頭が痛くなっただけだ」 「そうですか……。もしかしたら記憶が戻りつつある兆候かも知れません。今後も頻繁に起こる可能性があります。少しでも体調に変化を感じた時はすぐに私に言ってくださいね」 「ああ……すまない先生。世話を掛ける」 「いいえ、どうかご遠慮なさらずに。体調のことだけでなく、思ったことや不思議に感じることなど、どんな小さなことでもいいのでお話くださいね」  鄧は穏やかに微笑むと、『そうだ』と言って席を立った。 「お茶でも如何ですか? 実は私、茶葉を集めるのが趣味でしてね。リラックス効果のあるお茶でも淹れて参りましょう」  鄧が準備をする姿を横目に、周はまたしても不思議な感覚に囚われるのを感じていた。  頭の中で聞こえる声が次第に大きく鮮明になっていくのを感じる。 『鄧先生は茶葉を集めるのがご趣味だもんね! ここでしか手に入らないような珍しい茶葉とか買っていってあげたいな』  いつか誰かが言っていたような気がする言葉だ。その時はとても幸せで、穏やかな気持ちでその言葉を聞いていたような気がする。 「あれは……誰だったんだ」  ニコニコと笑うその笑顔がとても愛しく思えていた気がする。だが、肝心のその顔が思い出せないのだ。  ふと、脳裏に秘書の青年の姿が浮かぶ。 (あの青年だったらきっとあんな笑顔で笑うのだろうな)  彼のことを思い浮かべるだけで気持ちが穏やかになっていくのが不思議と心地好かった。 ◇    ◇    ◇  その夜、夕飯の時に周は思い切って秘書の青年と会話をしてみようと思った。これまではただ一緒に卓について、特には思うことも感じることもなく出されたものを食べるだけで終わっていたのだが、昼間医師の鄧と話をしたことによって、他の者ともコミュニケーションを取ってみたいと思うようになったのだ。周自身、自分でも驚くような欲求といえた。 「冰……君だったな? 少し話してもいいか?」  周に話し掛けられて、冰は驚いたように瞳を見開いた。だがすぐにやわらかな笑顔を見せてくれたことにホッとする。 「もちろんです。俺も周さんとお話させていただけるのはとても嬉しいです!」 「そうか……すまない。まだ自分がどこの誰かも思い出せないのでな。上手く話せるかどうか分からんが……」 「構いませんよ。急ぐことはありません。ゆったりと構えていてくだされば、いつか自然と思い出せる時がきますよ」  慌てることはないと微笑んでくれる。こう言ってはなんだが、例の香山という男とは正反対だ。彼は何につけても焦れたり強要したりするばかりだった。

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