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謀反43
その後も特に変わったことのないまま数日が過ぎていった。周にとって変化を感じることといえば、秘書の冰と接している時が一番心地好いと思えることくらいだった。彼と食事をしたり、彼の笑顔を見ているだけでなんとも言いようのない安心感に包まれるのだ。
早く全てを思い出したい。どんなふうに彼と出会ってどんなふうに毎日を過ごしていたのか。どんなふうに仕事を共にしてきたのか。全て思い出して心から笑い合いたい。自分が結婚していたという相手のことよりも、今は何故かこの冰という青年とどのように過ごしていたのかを知りたい気持ちに駆られる。それは周にとってとても不思議な気持ちだった。
そんな中で迎えたある週末のことだった。周の容体が落ち着きを見せ、少しずつ周りの者たちとの会話も増えてきたと聞いた鐘崎が、紫月を連れて汐留へと様子見にやって来たのだ。
冰と紫月は相変わらずに二人で甘いものを楽しみながらおしゃべりに花を咲かせている。皆で周を囲んで話すのもいいが、かえって緊張させてしまってもよくない。あまり特別扱いせずに普通にしていてやるのがいいと思っている冰の考えであった。
「楽しそうだな。うちの秘書はあんたらともよく知った間柄だったらしいな」
少し離れたソファで鐘崎と肩を並べながら周が問う。鐘崎もまた普段とさして変わりのない話し方で応えてみせた。
「ああ。俺たちはよくここへ寄せてもらうんだが、こうして会えばあいつらはいつもあんな調子だ」
「鐘崎君……だったな? あんたも俺のことはよく知っていたのか?」
今の周は記憶を失っているわけだから、そんな呼ばれ方でも驚くこともないのだが、さすがに『鐘崎君』ではなんともむず痒い気分にさせられる。
「鐘崎でいいさ。俺とお前さんはガキの頃からの幼馴染だ。冰と一緒にいるのは紫月といってな。ヤツもお前さんとは古くからの馴染みだ」
もっとも紫月と周が出会ったのは高校生の時で、以来三人で親友としてツルんできた仲なのだと教える。そして鐘崎はその紫月が自分の伴侶であることも隠さずに打ち明けた。
「あんたにも男の嫁がいるのか」
「俺も――ってことは、お前さんもそうだということを誰かに聞いたのか?」
鐘崎も紫月も、冰がまだ周と結婚しているという事実を知らせていないことを聞いていた。その理由も含めてだ。
「医者から聞いた。俺には男同士で生涯を誓った相手がいるとな。ただ肝心の相手が誰かということは教えられないと言われてな」
「なるほど。俺も少し聞きかじっただけだが、お前さんと一緒に例の鉱山にいた男、香山というヤツが、自分がお前さんの伴侶だと名乗ったそうだな」
「ああ……。だがどうしてか信じられなくてな」
「周りの連中がお前さんに本当の嫁が誰かってのを教えないのは、そういう経緯か。また香山のように嘘をつかれる可能性もあるからな。それにお前さんならいずれは自分の嫁を捜し当てられると信じているんだろう」
鐘崎もまた、医師の鄧らと同じことを言った。
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