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謀反46

「冰と過ごした日々を知りたいのなら素直にその感情に従えということだ。それが嫁を裏切ることになるとか、自分は最低の亭主だとか、そんなことを思う必要はない。お前が感情のままに動くことこそが嫁と再会できる一番の近道だということだ」  今はそれしか言えないが、俺を信じろと言って鐘崎は力強くうなずいた。 「冰君との日々を知ることが……嫁を思い出すことに繋がるというわけか?」 「そういうことだ」  鐘崎は周にこれほど強い自我が生まれつつあることに光明を見る思いでいた。やはり夫婦の絆というのは大したものだ。誰が何を言わずとも周の興味は冰を求めてやまないのだ。  この際、本当のことを教えてやってしまった方が周を苦しませずに済むとも思えるが、どこかで聞いた話によると人間はストレスがなくなってしまうと良くないのだそうだ。まあ、過度にあり過ぎるのは問題だが、周に自力で記憶を取り戻させることを考えるならば、今のこの悩みや苦しみは、ある意味必要なのかも知れないとも思う。 「そうだ。お前さん、身体の方はもうすっかりいいんだよな? だったらちょっと外の空気を吸いに出てみねえか?」  例のケーキが美味いラウンジにでも連れ出してみるのも悪くない。あの店は冰が初めて周を訪ねて来た日に連れて行ったと聞いているし、その時と同じようなシチュエーションを作ってやれば何か思い出すかも知れないと思うのだ。 「冰、紫月! 出掛けるぞ」  鐘崎は二人を呼び寄せると、ケーキを食べに行こうと誘った。驚いたのは冰だ。 「あ、でも身体の方は大丈夫なの白龍?」  この四人が顔を揃えているからだろうか、ついいつもの感覚で口走ってしまったのに首を傾げたのは周だった。 「白龍……?」  彼はまだ自分にそういった字があることを知らないようだ。周焔という氏名は教えられたものの、さすがに字など細かいことまでは知らされていなかったのだ。  冰もそれに気付くと、すぐに『何でもありません』と言って微笑んだ。 「周さんの体調が良いならそれもいい気分転換になりますね!」 「そうそう! 家にこもってばっかじゃモヤシになっちまう! それにあそこのケーキは絶品だからな。きっとお前も気に入るって!」  紫月はすっかり乗り気だ。それに話し方もこれまでと全く変わらずにフレンドリーで、周は何故か心が和むような気にさせられてしまった。 「紫月……君だったな? 俺はあんたとも親しかったんだ……よな?」  周に訊かれて紫月は『もちよ!』と親指を立てて笑った。 「お前とは二人で一緒にバディを組んで事件を解決したこともあるんだぜ!」  そう、以前宝飾店で起こった大規模な人質事件の時は周と紫月、そして鐘崎と冰というバディ体制で見事解決への突破口を開いたものだ。

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