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謀反55

「さっきテーブルに頭をぶつけたお前を見た瞬間に、初めてお前がここを訪ねてくれた日のことを思い出したんだ」 「……! あ、あの日の……?」 「ああ――、あの時もこの部屋だったろう?」  確かにそうだ。二人が十二年の時を経て再会したのはこの部屋だった。そして緊張がマックスになってテンパっていた冰は、先程と同じようにこのテーブルに頭をぶつけたものだ。周にとって、冰が自ら訪ねて来てくれたその日のことは何よりも嬉しい記憶として心に刻まれていたのだろう。瞳を細めながらテーブルを見つめる視線が、まるで冰そのものだとでもいうように愛しげだ。 「お前が訪ねてくれたあの日、俺は本当に嬉しかった。香港を離れて以来、あんなに心震えたのは初めてだったように思う」  心の奥底に眠っていたその時の感動が、閉ざされていた周の記憶の鍵を開けたのだ。 「白龍……」 「あの日、テーブルに頭をぶつけるほどに緊張して、何に対しても一生懸命で……素直で律儀なお前を目の前にしながら……初めて出会った幼かった頃と何ひとつ変わっていないお前に気持ちの癒される気がしていた。――その時のことを思い出した。それからはあふれる泉のように次々と記憶が蘇ってきた。そりゃあもうすげえ勢いで――な?」 「白龍……! 白龍がそんなふうに思っていてくれたなんて……俺……」  冰もまたその日のことを思い返しては再び潤み出した涙を拭う。 「今まで忘れちまってたのが嘘のようだったぞ。変な話だが、ものすげえ貴重な体験ってくらいの感覚でな……。お前らと過ごした日々のひとつひとつが写真みてえになってドワーッと押し寄せてきたっていうかな。頭の中で映像として浮かんできたっていうか。とにかく言い表しようがない感じだった」  周は今一度冰の頭ごと引き寄せては、すっぽりと腕の中に抱き包むようにしながら言った。 「何もかも忘れちまってた俺の心の扉を――お前が開けてくれたんだ」 「白龍……ううん、ううん! 俺なんか……なんにもできなくて……。ただ側にいるだけで……白龍が一番辛かっただろうに……! 思い出してくれて本当にありがとう……本当によくがんばってくれて……」 「お前のお陰だ――。そして李に劉。真田に鄧、皆のお陰だ――!」 「白龍……。うん、ほんとにそうだよね。皆さんのお陰――!」  冰は安堵とも喜びともつかない高揚感に、ガクガクと全身が震えるような心持ちだった。

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