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身代わりの罠3

 まずブライトナー夫妻が来日し、滞在先のホテルにチェックインした時点で入れ替わり、本物の夫妻にはそこで着替えてもらい僚一らと共に警備が厳重な別の施設へと移動してもらう。その後、会合当日までの間、医学会のお偉いさん方と食事を共にしたりプライベートで買い物に出掛けたりする夫妻の行程を鐘崎とメビィが代行するという手順だ。 「クラウスはドイツ住まいだからな。母親が日本人だから日本語も多少話せるそうだが普段はドイツ語だ。お前さん、言語の方はイケるな?」 「ドイツ語か――。簡単な日常会話程度ならな。だが、医学用語など詳しいことを振られたら完璧にとはいかねえぞ」 「その点は心配無用だ。今回、お前らの世話係を装って周焔のところの鄧浩に助力を依頼した。彼は医者だ。ドイツ語はもちろんのこと、専門的な話を振られても対応できる」 「鄧先生か。そいつは心強いな」 「お前らには常にどこからか監視が付くことが予想される。会食相手のお偉いさんも事情は把握しているから、適当に和気藹々とした雰囲気を演出してくれればいい。その間も鄧が同行してくれることになっている。食事や買い物などの用事が済んだらお前らは滞在先のホテルへ戻り、メビィはそのままホテルに滞在。鄧には敵の目を引きつける為に一般客と同じエレベーターから帰ってもらい、その間にお前はコネクティングルームから直接地下の駐車場へ抜けて帰宅できるようになっている」  その際はクラウスとは違う雰囲気の服装などに着替え、抜かりなくやってくれと僚一は言った。 「なにせただでさえお前とクラウスは似ている。一日の行程を終えて自宅へ戻る際には、極力クラウスの雰囲気とは違う変装を心掛けるようにしてくれ」 「守備は分かった。だが、コネクティングルームから直接地下駐車場へ降りられるなんてシステムが存在するのか?」  通常、一般的なホテルはそのような造りにはなっていない。コネクティングルームから隣の部屋へ移動することは可能だとしても、一旦は廊下へ出なければならないはずだ。監視が付いている中、いかに隣の部屋といえども、帰ってすぐに隣室から出入りすれば気付かれないとも限らない。 「その点は心配いらん。なにせホテルというのはグラン・エーの特別室だからな」 「グラン・エーだと? 粟津財閥のホテルか」 「そうだ。お前ともよく知った仲の粟津帝斗の親父さんが経営するホテルさ」  帝斗には以前三崎財閥の事件の際にも大層世話になった経緯がある。おそらくはその特別室というのも粟津家がプライベートで使っているペントハウスにある部屋のことだろう。鐘崎自身も帝斗に呼ばれて訪れたことのある部屋だ。 「あそこのフロアには一般客は入れん仕様だったな」  それならば監視がそのフロアにまで付いて来るのは難しいだろう。なかなかにいい準備といえる。

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