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身代わりの罠13
二時間後――。
食事が済み、リビングのテーブルには敵の目をごまかす為の資料が散らばっていた。
「……さん? 遼二さん!」
ソファの背もたれに深く身体を預けたまま眠り込んでしまった鐘崎の肩を揺すって、メビィはニヤっと口角を上げた。
「どうやら効いたようね。ぐっすり眠ってしまってる……。ま、当然よね。無味無臭、わずかな予兆も感じさせないまま心地好い眠りに引き込んでしまうっていう特別な代物だもの」
色白の手に握られているのは強力な睡眠薬だ。大概この手の薬を盛られれば、意識を失う直前に何かおかしい、頭がクラクラするなどの自覚症状を覚えても不思議はないのだが、彼女の使った薬はそういった予兆さえも感じさせないという精巧な代物だったようだ。メビィはすかさずスマートフォンを取り出すと、仲間へと決行の合図を送った。
「アタシ。こっちは準備オーケーよ! 遼二は眠ったわ。早速始めるからしっかり撮ってちょうだいね」
そう言って鐘崎の身体をソファへと横たえると、ネクタイを解いてワイシャツの前をはだいた。そして自らも服を脱ぎ、下着姿になると、そのまま鐘崎へと覆い被さるようにして胸元へと顔を埋めた。
「これでよし……っと! それにしてもなんて見事な身体つきかしら。腹筋も引き締まってて、よくよく男前の顔立ちに似合ってる……。見てるだけでドキドキしてきちゃうわ」
今回は任務として引き受けた役割ではあるが、実際にこの男が自分のものになるのなら非常に幸運だと興奮せずにはいられない。
「あら……? これは刺青……。さすがに鐘崎組ね。こんな立派な刺青までいれて……しかもよく似合ってる」
メビィは肩の雄々しいそれを指でなぞりながらうっとりとした溜め息を漏らした。
「ああ……この人がアタシのものになることを考えたら……なんて素敵なのかしら! あとは彼の手をアタシの背中に回して……」
まるで情事の真っ最中といったシチュエーションをでっち上げる。
「いいわ、撮り始めてちょうだい。通話はこのままにしとくから、音声もしっかり拾ってよ!」
仲間に合図を送り、メビィは艶めかしい声を上げ始めた。対面のビルに見えた人影は敵の監視役などではなく、鐘崎を陥れる為に配置されたメビィのチームのメンバーだったのだ。食後の珈琲に混ぜられた睡眠薬のせいで、鐘崎はまんまと罠に嵌められてしまったのだった。
◇ ◇ ◇
そうして一夜が明け、次の日の朝がやってきた。
鐘崎が目覚めた時には既に太陽が昇っていて、側にメビィはおらず、一人ソファの上だった。スーツの上着が背もたれに掛けてあり、毛布に包まっているところをみると、昨夜いつの間にか眠り込んでしまったというところか。鐘崎はガバリとソファの上で身を起こした。
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