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身代わりの罠16

「では女の方はカネに任務以外で何らかの感情を抱いているということか?」 「さあ、そこまでは何とも。単に遼二君がイイ男だから、この女性の方でも浮かれているのかとお見受けしておりましたが……」  若いエージェントだし、組んだ相手が男前とくれば浮かれても仕方ないかと思えるが、それにしても鐘崎の性質上、進んでこんなことをするとも思えない。 「そういえば遼二君が気になることを仰っていましたね。なんでもこの女に『浮気をしたいと思ったことはないのか』と訊かれたとか」 「浮気だ? まさかそれに乗っかるようなバカじゃねえはずだが」  鐘崎が紫月に一途なことは言わずと知れているが、仮に魔が差したとするなら、よほど女が巧みだったということか。それにしても信じ難い。 「もちろんはっきり否定したと仰っていましたよ。遼二君にとっては任務以外で余計なことに首を突っ込まれるのは非常にうっとうしいといった感じでしたが……」  鄧の言うには鐘崎は心底面倒臭そうにしていたとのことだった。 「そ、そんなことより……この掲示板って紫月さんが見てる可能性もあるわけでしょ?」  冰がハラハラとした表情で気に掛けている。こんな淫らな画像を紫月が見たとしたら、いくら彼でもさすがに平常心ではいられないだろうと思うのだ。 「李、カネの現在地を調べてくれ」 「は! お待ちください」  すぐに鐘崎の刺青に取り付けてあるピアスのGPSを検索する。 「出ました! 鐘崎さんは現在グラン・エーにいらっしゃると思われます」 「ということは、昨夜このまま泊まったのは事実ということか」  周が渋顔で眉根を寄せる。 「カネのことだ。これも何か任務に関するカモフラージュという可能性の方が高いが、それにしてはわざわざ裏の世界にいる全員が目にする掲示板にこんなモンを上げる意味が分からねえ。こいつぁ……今頃各方面で騒ぎになってることだろう……」 「白龍……」  冰は何を置いても紫月のことが心配だという顔つきで、訴えるように見上げてくる。 「そうだな。僚一も源次郎さんも今はブライトナー夫妻に付きっきりだ。こっちの方までは気がついてねえ可能性が高い。一之宮のところへ行ってみるか」 「うん……うん、そうしようよ!」  周は冰を連れて紫月を訪ねることにし、鄧にはグラン・エーに出向いて至急鐘崎と落ち合ってくれるようにと伝えた。 「李はここに残って各所からの連絡を取りまとめてくれ。状況によってはカネの親父にもすぐに知らせねばならん。それから念の為、これらの画像と音声の分析を頼む。もしかしたら故意に作られた偽画像という可能性もある」  この手の代物をネット上に撒くということは、普通ならば動画で上げる方がより効果的だ。それをわざわざ音声と画像に分けたという点が、周にとってはどうにも引っ掛かってならない様子だ。 「分かりました。すぐに解析にかかります!」  そうして一同はそれぞれの目的地へと向かった。 ◇    ◇    ◇

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