790 / 1208

ダブルトロア6

「テレビで観たまんまだね!」 「な! すっげオシャレ!」  午後の陽射しがたっぷりと降り注ぎ、街路樹をキラキラと照らしているのが美しい。しばし景色を堪能していると、金髪のウェイターがメニューを運んできた。黒の蝶タイにエプロン姿が映画さながらだ。そんなところもヨーロッパ情緒にあふれていて、初めて訪れる冰は見るものすべてに感激といった面持ちでいた。紫月の方は早速ご当地のケーキに夢中だ。 「ウィーンといえばこれだべ! ザッハトルテ!」 「ですね! ザッハトルテはお土産にも買って帰りたいと思っているんですよー。まずは味見ですね!」  甘味大魔王の紫月が冰と一緒にワクワク顔でメニューにかじりついている。その脇で周と鐘崎ら男四人はソーセージとビールをチョイスするようだ。難しいドイツ語のメニュー表も鄧が居れば困ることもない。 「それはそうと、オペラのチケットを取っておいた。場所はウィーン国立歌劇場だ」 「うわぁ! ありがとう白龍」 「鄧とライさんが一緒に行ってくれることになってる。ボックス席だから身内だけでゆっくり楽しめるぞ」 「じゃあお席には俺たちだけってこと? そんなすごいところで観せてもらえるなんて!」 「めちゃくちゃビップ待遇じゃん! やったな、冰君!」 「はい! 楽しみですね!」  冰と紫月は大喜びだ。今回、周が取ってくれたのは二階中央にあるミッテルロジェといわれる大型ボックス席のすぐ隣だ。ミッテルロジェは舞台を望む景観も音響も最高に素晴らしいとされているが、三十人以上が入れる大型ボックスなので、さすがに五人だけで占領するのは申し訳なかろう。そのすぐ脇の席は七人用のボックスなので、ちょうど良かろうと、そこを確保してくれたそうだ。観劇は兄嫁の美紅も含めて嫁組の三人と、そのお守り役として曹来と鄧浩の計五人で行く予定だ。 「白龍たちは業者さんたちとディナーなんだよね?」 「ああ。お前たちの観劇が終わる頃には俺たちもホテルに戻れるだろう。楽しんで来い」 「悪いね、俺たちばっかり」 「そんなことは気にするな。劇そのものもだが、劇場の建物が素晴らしいからな。それを見るだけでも楽しめるだろうぜ」  ビールを片手にニヒルに笑う周の横顔がなんともいえずにクールでスマートだ。今は冬の真っ只中だから、なめらかなカシミアのコートが長身の彼にとても良く似合っていてドキドキとさせられてしまう。 「白龍ってばさ、何処にいても格好いいっていうか……そのコートもすごく良く似合ってるし」 「コートじゃなくてこのマフラーな!」  周は一昨年のクリスマスプレゼントとして冰が贈ったマフラーをしてきてくれていた。もちろん冰も気付いていたが、忘れずに身につけてくれていることが何より嬉しくて堪らなかったのだ。 「ありがとうね白龍。こんな素敵な旅行に連れて来てもらって、それにマフラーも……」  頬を染めてモジモジとしている様子がなんとも可愛らしい。周は華奢な肩を抱き寄せて、クシャクシャっと頭を撫でたのだった。 ◇    ◇    ◇

ともだちにシェアしよう!