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ダブルトロア9

 優秦の計画はこうだ。五人は地元のチンピラ連中によって金目当てに拉致され、風らが行方を捜し回っているところに偶然を装って自ら会いに行く。優秦とて元は香港マフィアの一員だったわけだから、例え外国に移り住んだとはいえ各方面にそれなりの顔は利く。自分が手助けをしてやると言って美紅以外の四人を無事に解放すれば、風らも恩義に思うだろうとのことだった。 「できる限り手は尽くしたけれど、交渉が成立した時にはあの女だけが殺されてしまっていて、四人だけしか救えなかったってことにするの。犯人は地元のチンピラなんだし、アタシは人質の解放に尽力した。そうなれば風だってアタシを責めることもないでしょうし、曹先生や弟の連れ合いを守ってあげたんだから感謝されるはずよ」  彼女の計画を聞いて、男はますます呆れてしまった。要はまだ風に未練タラタラというのが見え見えだ。狂言誘拐を企てた上に邪魔な風の妻だけを始末して、あわよくば残る四人を助けてやったことで風が自分に靡いてくれるとでも思っているわけだ。  相変わらずに身勝手この上ない我が侭ぶりだが、男としてもここまで来てしまった以上、今更引き返すのもためらわれるところだ。危ない橋には違いないが、成功すれば悪くはない企てだ。がっぽり報酬をもらって、それこそこの我が侭娘を出し抜き、あの風の美人妻を拐って逃げるのも悪くなかろう。男は最終的にこの優秦を裏切って、大金と美紅を我が物にしようと思うのだった。 「話は分かりましたぜ、嬢さん。まあ上手くやってみせますぜ」 「頼んだわよ。五人を拉致したら、まずは身に付けている宝飾品を全部引っ剥がすのよ! スマートフォンはもちろん、アクセサリー類や腕時計も全部よ」 「アクセサリーにGPSが仕込まれているかも知れないから――ですかい?」 「よく分かってるじゃないの。その通りよ。アンタもさすがにパパの下にいただけのことはあるわね。奪った宝飾品は電波を通さないアタッシュケースに入れて保管、事が上手く片付いたらアタシが雇ったチンピラ連中への報酬にするのよ」  仮にGPSが組み込まれていたとして、それらを報酬として雇った連中に引き渡せば、後々犯人が割れた時には周一族が彼らをふん縛るだろう。奪った宝飾品が彼らの手元にある以上、本当に地元の誘拐犯に拉致されたという証拠にもなり得るわけだ。 「は! どこまでも悪知恵がお働きになることで! 嬢さん、アンタ大したもんだよ」 「おだてはいいから! しっかり働いてちょうだいね!」 「かしこまりましたぜ、任せてくだせえ!」  こうして水面下での悪巧みは着々と進行していったのだった。 ◇    ◇    ◇

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