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ダブルトロア19

「分かった……。あんたを解放する。嬢さんにゃ悪いが、俺もいつまでこんなチンケな人生を歩んでちゃいけねえや」  男は言うと、自らのコートを脱いで美紅の肩へとそれを掛けた。 「……あなた……」  いったいどういうことだと美紅は美しい瞳を不安げに揺らす。 「俺が悪かった。この通りだ。今更かも知れねえが……俺はあんたを助けたい!」 「……助けるって……よろしいの?」  そんなことをすれば優秦に合わす顔がなくなるだろうと、ここでもまた美紅は自分の身よりもこちらの立場を危惧するような顔つきを見せる。言葉にせずとも彼女がそんなふうに案じてくれていることが、その表情だけで分かるのだ。 「本当に……あんたは顔も別嬪なら心も綺麗なお人だ。それに比べて俺は……見ての通り最低のクズ野郎だ。だが、一生に一度くれえはてめえで正しいと思ったように動くのも悪くはねえ。優秦の嬢さんを裏切ることで厄介な行く末が待っていたとしても、俺は自分が正しいと思った人生をいきてえ」  男は美紅の前で丁寧に跪くと、胸に手を当てて誓いの言葉を口にした。 「二年前も今も……俺のやってることは褒められたモンじゃねえ。もしも……そう、あの時もあんなことさえなけりゃ俺たちは未だに周直下でいられたんだ。本来であればあんたは俺が守るべきファミリーの大事な姐様だ。こんな俺を信じてもらえねえかも知れねえが、命をかけてお守りし、無事に風老板の元へお返しすると誓います」  男は縄を解いて美紅の手を取ると、 「姐さん!」  と言って、再び深々と首を垂れた。わずかに肩を震わせて祈るようなその様からは、まるで『どうか信じてくだせえ』とでも言わんばかりなのがひしひしと伝わってくる。美紅はその手を握り返しながら、『ありがとう』と言ってはその美しい瞳を潤ませたのだった。 「とにかくここを出て曹先生たちと合流しやしょう。ぐずぐずしてたら嬢さんがやって来る」  その前になんとかしないと……と男は言った。 「優秦さんは今どちらにいらっしゃるの?」 「今頃嬢さんは更に人手を集めてるはずだ。俺の聞いた計画じゃ、大勢のチンピラ集団があんたらを襲っているところへ嬢さんが助けにやって来て、ヤツらから曹先生たちを救ったってことにする筋書きだった。その後、風老板に連絡して恩を売ろうって算段だ。その際にあんただけは助けられなかったってことにするつもりだったんだ」

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