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ダブルトロア29
一方、曹らの方では優秦が差し向けた暴走グループに囲まれている真っ最中であった。打ち合わせ通り、美紅と冰には隣の棟の地下室に身を隠してもらうことして、優秦にそそのかされて香港からやって来た楊宇が交渉役として暴走グループの中へと向かっていった。曹と鄧、紫月の三人は建物内で様子を窺いながら待機だ。
「それにしてもすげえ数だな。つか、ヨーロッパにも暴走族がいるってことの方が驚きだけど」
紫月がヘンな感心をしている。
「そうですね。私も驚きました。楊宇は上手くやってくれるでしょうか……」
鄧も半信半疑で雨戸の隙間から様子を窺っている。
「ヤツが交渉に失敗した際は間違いなく乱闘になるだろう。こっちは三人、楊宇を入れても四人だ。ヤツも腕は悪くないから頼りになるとは思うが、それにしても敵はザッと三十人を越す大群だ。どう戦う」
こちらが銃でも携帯していれば心強いところだが、今ある武器といえば報酬用の日本刀のみだ。しかも扱えるのは紫月唯一人。よほど上手く立ち回らなければ勝機は薄い。
「先生たち、バイクの運転はどうッスか?」
紫月が訊く。
「免許はありますからね。一応起動のメカニズムは分かりますが」
鄧は動かすこと自体はできるようだが、実際に数度しか乗ったことがなく自信満々とはいえないという。
「曹先生は?」
「俺はオーケーだぞ。なかなかにいいマシーンに乗ってるヤツもいるし、転がしてみるのも悪くないな。おそらく楊宇のヤツも運転はイケるはずだ。俺の記憶では楚光順の組織じゃ香港のスラム化した地域で不良だった連中を拾い上げて、彼が根気よく心血を注ぎ更生させたヤツらが多かったと聞いている。それこそ族上がりの者もいたはずだ」
楊宇は二年前の事件の時も最後まで足掻いた凄腕だったし、周風が一騎打ちをした結果、ようやく倒せた男だったという記憶がある。腕っ節も相当なものだし、体格も立派だ。おそらく上手く転がせるのではと曹は言う。
「んー、そんじゃ交渉決裂したら先ずはバイクを奪うか。曹先生、俺をケツに乗せて走れる?」
「朝飯前だ」
「だったら俺がバイクを奪う。そしたら曹先生に運転任せるから、俺をケツに乗せてヤツらを撹乱するように走ってくれ。なるべく鞘から抜かずに峰打ちで済ませるようにするけど、万が一の時はコイツでタイヤを掻っ捌く」
あんなにいいマシーンに傷を付けるのはもったいねえ話だけどなと笑いながら、紫月は日本刀を握り締めてうなずいた。
「すごい作戦ですね。では私も二人の足を引っ張らないよう頑張るとします」
鄧が感心顔をしていると、曹の方ではまたもや謙遜するなと言って笑った。
「何だか子供の頃に受けていた戦闘訓練を思い出すな。周風と焔君と一緒にえれえ目に遭ったもんだ」
「ああ、それって遼も参加してた夏休みの合宿ッスか?」
「そう! そういえば遼二とも一緒だったな」
毎年夏休みと冬休みになると熱帯雨林や極寒の地で行われていたという裏の世界の子供たちの情操教育だ。周が幼い頃にはその訓練のあまりの過酷さに、もうやりたくないと言って父の隼にぶっ飛ばされたという例の訓練である。
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