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ダブルトロア31
先ずは特攻隊の紫月が楊宇 を庇うように軍団の輪の中に突っ込んで静止、一度だけ鞘から刃を抜いて三百六十度周囲のバイクに乗った男たちを峰打ちで叩き落とす。と同時に視覚では追えないほどの速さで刃を鞘へと戻す。月明かりに照らされてほんの一瞬だけ長刃の刃先が煌めいたと思った瞬間には、既に刃は鞘へと収められていた。
見ていた者たちにとっては何がどうなったのか理解できないほどの早技である。しかも叫ぶでもなければ派手な身振りひとつない、まさに静の動きそのものだ。
案の定、ポカンと大口を開けて硬直状態の敵から手際良くバイクを乗っ取ることに成功、すぐさま曹が運転を引き受けた。
そのまま二人乗りで軍団の輪の中へ突っ込みながら、手当たり次第に紫月が峰打ちで気絶させていく。今度は鞘から抜かずに急所目掛けてバイクから叩き落とすことのみに専念する。上手く当てられずに転がり落ちただけの男たちについては、鄧が気功術で留めを刺していく。この大群を前にして、実に鮮やかな連携といえた。
一方、乗っていた敵が気を失って投げ出されたバイクを楊宇 がすかさず乗っ取ったのを見て、曹はキラりと瞳を輝かせた。
「思った通りだ! 奴さん、バイクの運転もお手のものだったな」
なかなかにキレのある操縦で周囲を蹴散らしている。体格も立派なので大型のバイクにも飲まれていないし、運転も非常に巧みといえる。その様子を見てとった紫月も『よし!』というようにして次なる作戦を曹に告げた。
「先生、一旦加速してヤツらの周りを滑走してくれ! 楊宇 さんとは逆回りに走って近くまで寄せてもらえる? すれ違い様にあっちに乗り移る!」
「……ッ!? 乗り移るだと!? 」
「心配ねえ! 楊宇 さんの腕なら転倒しねえはずだ!」
紫月は言うと同時に立ち上がって日本刀を構えた。
(何か作戦があるのか……?)
曹は紫月の毅然とした様子から策を仕掛けようとしている雰囲気を感じ取ってか、とにかくは言う通りに従うことに決めた。
バイクは曹と楊宇 で敵集団を取り囲むようにスピードを上げていく。曹は時計回り、楊宇 は逆回りだ。円を描いて走れば互いがすれ違う瞬間がやってくることとなる。
「先生、前に屈んで! 申し訳ないが踏み台として肩貸してもらうぜ!」
「分かった! 遠慮なくやってくれ!」
曹が前屈みになったと同時にその背中に足を掛けて体勢を整える。その状態でしばし滑走すれば、まるで獅子がタテガミを靡かせて悠久の大地を駆け巡るかのような錯覚を起こさせるほどの絵図が浮かび上がる。それまで爆音を撒き散らして楊宇 を追い掛け回していた連中らも、呆気にとられたようにして目を丸くしている。次第に操縦することも忘れたようにスピードをゆるめて硬直状態に陥る中、前からやって来た楊宇のバイクとすれ違う瞬間を迎えた。
「楊宇 ! 彼を受け止めろ!」
曹が広東語でそう叫ぶ。
「え!? あ、はい!」
バイクの後ろで立ち上がっている紫月を目にして楊宇も咄嗟に状況を理解した。
「いくぜ! 名付けて”飛天 ”改 だ!」
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