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紅椿白椿3

(おいおいおい……待て待て待て……ッ! ヤったって何よ……? 何ヤったってんだよ)  寝乱れた寝具、ハダけた着物――思わず邪な想像がボワっと頭を占領して、男はますます縁側の二人に釘付けにさせられてしまった。  そんなことは露知らずの彼らは、更に心拍数を上げるような会話を繰り広げていく。 「……ったく、おめえときたら相変わらずなんだからよぉ」 「仕方ねえだろ。俺ァいつでもこうしてたいんだ。てめえで言うのもナンだが、四六時中くっ付いていたいんだ」 「はは、しょーもねえ旦那だな」 「そう邪険にしてくれるな。愛してるんだ」 「バッカ、遼」  口では詰りながらも嬉しそうに頬を染める。後ろから抱き包まれた身体を何とかよじりながら、男は湯気の立つティーカップに口をつけた。 「んー、美味(うま)ッ! いい香りなぁ」 「濃さはそんくれえで良かったか?」 「うん、濃さも甘さもドンピシャ! おめえが淹れてくれたと思うと尚更美味(うま)く感じるね」 「嬉しいことを言ってくれる。またエロライオンになりそうだ」 「あー、はいはい。ライオンもなぁ、サカる為にはちゃんと栄養補給しねえとな?」  華奢な方の男が軽く受け流して笑う。 「ほれ、ひと口どうだ? 美味(うめ)えぜ」 「ん、そんじゃもらおうか。ひと口くれえなら悪くない」 「そうそ! 何せ体力使った後だからな。糖分の補給は大事だぜ?」  そう言って自身を抱き包んでいる男の口にフォークですくったケーキを持っていく。 (ぐわぁー! 待て待て待ってくれ……! サカるって何!? 体力使ったって……いったい何に使ったわけ!? ライオンって雄同士で交尾する生き物だったっけ? ――てか交尾!? まさか交尾したの? マジで……?)  頭の中をクエスチョンマークがグルグルと飛び交って唖然状態――。目の前の男たちが途端に荒野で睦み合うライオンに思えてきて、植え込みの陰で男はゴシゴシと目を擦ってしまった。  目の前の彼らは相変わらずだ。差し出されたケーキをパクっとひと口で含みながら、ますますギュウギュウと腕の中の存在を抱き締めている。スリスリと愛しそうに頬擦りする仕草はまるで恋人か結婚したての若夫婦といった雰囲気だ。

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