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紅椿白椿59

「よし、遼二と紫月。その二つをこちらへ」  今度は僚一がそう言って、二人はそれぞれの藁束を手に大広間脇の縁側へと戻って来た。  僚一はそれらを受け取ると、二つの斬り口を重ね合わせ、 「ふむ、大したものだな。見ろ、寸分違わず重なり合ったぞ」  皆にも見えるように高々とそれが掲げられると、なるほど双方斜めの斬り口がピタリと合って、まるでどこが斬り口なのかが分からないほどだった。 「ふあぁ……す、すっげえ……」 「さ、さすがは若と姐さんです……。まさに神業っスね」  組員たちから感嘆の溜め息が上がる中、当の夫婦もまたホッと安堵の溜め息を漏らした。 「うっは! やったな、遼!」 「ああ、稽古の甲斐があったな」  実はこの日の披露目の為に、二人はここ数日道場の飛燕の下に通い、みっちりと居合斬りの稽古をつけてもらっていたのだ。互いの斬り口をピタリと合わせるという非常に難しい技への挑戦だったが、稽古の甲斐あって見事成功させることが叶った。これも二人の努力の賜だろうが、とにかくは組員たちにも喜んでもらえたことだし、二人にとっても幸先の佳いものとなり、慶びを噛み締め合ったのだった。 「これは我が組の家宝として事務所に飾っておこうと思う」  父・僚一の言葉にも感謝でいっぱいになった二人であった。  と、ここで庭師の泰造と小川が中庭へと降り立ち、何やら大きな布の被せられた代物を台車に乗せて運んできた。真っ白な布の上には紅白を合わせてよじった蝶結びの紐飾りが掛けられている。 「若頭さん、姐さん、実は鐘崎組組員の皆様から仰せつかったお祝いの品がございます。ここでお披露目させてくださいやし」  包みが開かれると、出てきたのは椿の木であった。それも大小揃った二本だ。 「皆様から若頭と姐さんにとお祝いの樹木でございます。今はまだ花の時期ではございませんが、次の春先には見事な花をつけるでしょう。こちらの大きい方が白椿、今現在このお庭にございます紅椿のお隣に植樹させていただきたく存じます」  鐘崎と紫月にとっては大感激を通り越して感動の贈り物だ。紅白揃った|夫婦《めおと》の椿になるようにと組員たちが心を込めて考えてくれたのだろうその思いが、何よりも嬉しくて堪らなかった。  ところが、更に驚かされたのは泰造が続けた言葉の方であった。 「もう一つ、小さい方は桃色の花をつける椿です。こちらについては是非とも組員の皆さんからお話をうかがってください」  それを受けて幹部の清水が代表で説明をすることとなった。 「若、姐さん、この紅椿と白椿は若と姐さんを象徴されるものですが、小さな桃色の椿はお二人と共にありたいと願う我々組員の証としてお側に置いていただけたらと思います」  その言葉に鐘崎と紫月はもちろんのこと、二人の父親たちも驚いたように瞳を見開かされてしまった。

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