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春遠からじ33

 ――と、そこへ見張りをしていた者がやって来て、少々慌てた素振りで報告をしてよこした。 「お取り込み中すいやせん! 実は今、外に来訪者が数人やって来ているんですが……。ヤツらは自分が本物のCEOだと言い張ってます……」  如何いたしましょうと戸惑いを見せている。話を聞いた馬民(マ ミィン)らも驚いたようにして目を吊り上げた。 「本物のCEOだと――? じゃあここにいるのはいったい誰だというんだ……」  子涵(ズーハン)と父親をしきじきと眺めながら眉根を寄せる。 「はあ……ヤツらの言うには……そいつは身代わりのエージェントだとかで、ガキは本物らしいですが、やはり心配になって自ら出向いて来たとか――」  馬民(マ ミィン)は元社員だったからCEOの顔を見間違えるわけもないのだが、当時単なる一社員だった彼にとって、実のところ社長の姿を間近で見たことは稀であった。だから顔を知っているといってもウェブサイト上にある画像で知っているといった程度だったのだ。 「……どう見たってここにいるのが本物の社長殿だと思うがね」 「ですがヤツらは違うと言ってます……。秘書だとかいう女が一緒に来ていて、そいつはただの身代わりのエージェントだからシステムの保管場所も知らないと……」  馬民(マ ミィン)はまたしきじきと(ワン)親子を見つめながらも首を傾げてしまった。 「……どういうことです? あなたは社長本人じゃないっていうんですか?」  だとすれば非常に良くできた変装だと言って眉根を寄せる。だが、本当にこの男が身代わりのエージェントだというなら、システムの保管場所も知らない可能性が高い。それに、出向いて来た者たちについてもこの場所を知っているということは、満更嘘を言っているわけでもないのだろうと推測される。馬民(マ ミィン)は迷いつつも来訪者と会ってみることを承諾した。 「仕方ない。とりあえず通してくれ――。会ってから考えよう」  仮にその来訪者らが救援にやって来た警察関係者だったとして、こちらには凄腕のプロが幾人もついている。万が一罠であった場合、この場で全員を葬ってしまえばいいだけだ。  こうして鐘崎らはひとまず邸の中への潜入を成功させることとなった。 ◇    ◇    ◇ 「鐘崎さんたちが無事に邸へと入りました。各人引き続き援護の体制を続けてください」  李と曹から各所へ通信が送られる。敵が乗って来た車への細工を終えた源次郎らも合流して、建物周囲から侵入できる箇所などを探ることとなった。  一方の鐘崎らは見張りに案内されて馬民(マ ミィン)一味の待つ地下室へと連れて行かれていた。 「――あなたが本物のCEOだそうですが、僕の記憶ではここにいるこの方こそご本人だと認識していますがね。いったいどういうことです?」  馬民(マ ミィン)は胡散臭いといったふうに挑戦的な態度で鐘崎らを迎えた。だが、一緒にやって来た秘書の女性を目にするや否や、少々気持ちが動いたようだ。 「馬民(マ ミィン)さん、お久しぶりです……。先程申し上げたようにその方はCEOの身代わりとしてあなた方のところへ出向いてくださった警護班の方です。CEOとお顔立ちが似ていらしたので、私たちを守る為に危険を買って出てくださったのですわ」  秘書の女性がそう説明すると、馬民(マ ミィン)は多少信じる気になったようだ。 「あんた、まだ社を辞めていなかったのか……。聞くところによると今じゃ社長秘書にまで取り上げられたそうだな? あの頃は僕と一緒の開発チームで研究をしていただけの一社員だったくせに――えらく出世したものだ」 「……そんなことより……あなたが欲しい物を持って参りました。関係のないその方とご子息の子涵(ズーハン)君を解放してください!」  アタッシュケースを掲げて、これがそのシステムだと主張する。それを見てとった馬民(マ ミィン)はさすがに信じる気になったようだ。

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