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春遠からじ40
リビングに行くと嫁二人は源次郎らとワイワイ楽しいおしゃべりの最中であった。こちらに背を向けて座っていた冰が、振り向きざまに開口一番、『あ、鐘崎さんー! お茶入ってますよー』と言った。パッと見の雰囲気で周と鐘崎を間違えたのだ。
「いよし!」
ガッツポーズまで繰り出して周は上機嫌である。
「あれえ? 白龍だったの? どしたの、その髪……!」
冰のみならず全員で呆気にとられたように大口を開けている。
「どうだ。少しは若く見えるだろう」
鼻高々の周の後ろからオールバックにした鐘崎が姿を現すと、皆は更にポカンとした表情で二人を凝視してしまった。
「おやまあ……坊っちゃま! なんと若々しいこと!」
真田がティーポットを片手にあんぐり顔でいる。しばしの後、一気に場が大爆笑に湧いた。
「氷川……遼も! なかなかに似合ってんじゃねーの!」
紫月はパンパンと自分の太腿を叩きながら笑い転げている。医師の鄧も同様だ。笑い上戸な二人は腹を抱えて大ウケしているが、側近の李と劉はさすがに笑ってはいけないと堪える表情がまた滑稽だ。
「老板……と、とても良くお似合いですよ! なあ劉?」
「ええ、本当に! 老板も……鐘崎殿も新鮮な印象でいいですね」
口をパクパクとさせながら、どうにか笑いを堪えておべっかに必死の二人である。
そんな中、真面目に頬を染めてみせたのは冰だった。
「白龍……そゆ髪型も素敵だね! なんかいつもとまた雰囲気が違って……うん、ホント素敵……!」
さすがは唯一無二の嫁さんだ。紫月も鐘崎の珍しいオールバックが気に入ったようで、『ほええ、似合うじゃね?』と言いながらしきじきと眺めつつも、これもまた渋くていいと親指を立てて絶賛してくれている。
実のところ嫁二人にとってはこれで若返ったとか老けたとかの印象はなかったものの、普段は怖いもの無しというくらいの亭主たちが若見えにこだわって少年のようなことをやっていること自体が愛しく思えたようだ。
今回の旅で鐘崎も自分を取り戻せたようだし、|王《ワン》一家との心温まる出会いもあり、一行にとっては充実したものになった。
「次は風兄ちゃんの子が生まれる頃にまた皆んなで会いに行くべ!」
「ですね! もう二ヶ月後ですもん。楽しみですねー!」
愛しい嫁たちの朗らかな笑顔の側で、周と鐘崎もまた穏やかな幸せをしみじみと感じたのだった。
冬来りなば春遠からじ――えぐられ、凍ってしまった大地を愛情と友情というかけがえのない絆で癒し、耕し、潤しては再びあたたかい芽吹きの時を心待つ。この仲間たちと過ごせる時こそがそれぞれにとってまさに曙光の希望といえるのだった。
春遠からじ - FIN -
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※拙作をご覧くださりありがとうございます。
次回のエピソードは今回ラストに登場した台湾マフィアの若きトップ・楊礼偉(ヤン リィウェイ)の恋の話となります。
BLではなくNLの為、別サイト様にて新作としての投稿となりますが、楊礼偉の話が完結しましたら、またこちらで次々回のエピソードを投稿させていただく予定です。
詳しくはプロフィールページに記載の更新物案内ブログでご案内しています。
こちらでは上記完結までの間お休みをいただきますが、また次々回のエピソードでお目に掛かれましたら幸甚です。
ここまでご覧くださいました皆様に心より厚く御礼を申し上げます。一園木蓮拝
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