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倒産の罠20

「まあ……でも実際こうやって乗っ取っちまうんだから、あなたは大したものですよ。ボスも驚いていましたし。それに、ここひと月の間に業績も目に見えて上がっているそうじゃないですか。いや、ホントに恐れ入りますわ」 「ふ――お褒めにあずかって光栄ですがね。これからももっともっと業績を伸ばしてみせますよ」  曹は冷笑ながらも煙草をひねり消した。 「ところで曹田さん、あなたのことだ。ここを乗っ取っただけでご満足しているとも思えないとボスも言ってるんですがね――」  もしかして次の計画などもお有りかといったように中橋が身を乗り出す。曹と鐘崎にとっては予定通りの運びだ。 「次の計画――ね。まあ考えていないこともありませんがね。しかしまだここを手に入れたばかりですからねえ。もうちょっとこの社を成長させてからでもと思っているのですがね」  曹はわざと焦らすようにそんなことを言ってみせる。 「まあそう焦らさんでくださいよ。あなたほどの腕の持ち主なら、もう次のターゲットを決めてあるんじゃないかって、ボスも期待していらっしゃるんだ。できればその期待を裏切らないでもらいたいモンですな」 「期待――ね。光栄なことですね。まあ考えていないこともないですが、そう先を急いでも事をし損じるというものでしょう」 「……そんなことおっしゃらず!」  何か案があるならとりあえずそれだけでも聞かせて欲しいと中橋は急っ突いてくる。曹はニヤっと口角を上げながらも、わざと出し惜しみする態度を見せた。 「そこまでおっしゃるならひとつ案だけでもお話ししておきましょうか」 「ええ、是非ともお聞かせ願いたいですな」 「そうですか。では――まだ案の段階ですが、次は香港にある企業を狙おうかと考えております」  それを聞いた中橋がクイと眉根を寄せた。 「香港――ですか」 「ええ。ひとつなかなかにいい物件がございましてね」 「はあ……」  中橋は、どうもあまり期待にそぐわないといった顔つきでいる。 「おや、あまりご興味ありませんか?」 「いや、そういうわけじゃ……。ただ……」 「――何です?」 「……実はウチのボスとしては海外じゃなく、次もここ日本の企業を手に入れたいと考えていましてね」 「ほう? 海外にはご興味ないと――?」 「そういうわけじゃねえですが……」 「でもあなた方が最初に手を付けられたのは香港や台湾の企業だったはずでは? 私自身、あなた方とご縁をいただいたきっかけは香港の企業でしたよ?」  曹がカマを掛けると、中橋は少々焦ったわけか、こちらにとっては都合がいい内情のようなものを暴露してくれた。

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