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倒産の罠22

 計画が一転、少々窮地に陥ったものの、何とその日の内に事態は急速好転することとなる。一旦組へと戻った鐘崎を訪ねて来た人物がいたからだ。  なんと、それは日本のみならず世界的にも名だたる大財閥の御曹司、粟津帝斗であった。彼は周の社のトップが変わったらしいことを聞きつけて、実際のところはどうなっているのだということを気に掛け、幼馴染の鐘崎に事情を窺いにやって来たとのことだった。 「粟津――!」 「遼二! 紫月も久しぶりだねえ。ああ、そうそう! これは紫月への差し入れさ」  驚くほど大きなケーキの箱を差し出しながら朗らかに微笑む。察するに立派なホール状の特大ケーキが入っているに違いない。彼の言うには自分たちの経営するホテルラウンジの物だそうだが、カットする前のホール状のままの物を持ってきたらしい。 「うわ……すげえデカさ……! 結婚式ばりのケーキじゃねえの」  紫月が目を白黒とさせている。 「お前さん方の組では若い衆も多いと思ってね。切り分けるのが手間だけど、まあそこは適当にやっておくれ」  相変わらずの王子気質は見ている方の気分も鷹揚にするほどの大らかさだ。さすがの周の社でも粟津と並べてしまえばすっかり霞んでしまうくらいの大財閥――そこの御曹司とくれば少々浮世離れしていてもそれが普通なのかも知れない。 「今日寄せてもらったのは汐留にある周焔の社のことで尋ねたかったからさ。僕は周焔とはお前さん方を通して知り合ったわけだからね。直接本人を訪ねても良かったんだけど、いきなり携帯にかけるのも憚られてね。まずは遼二に訊いた方が早いと思ってさ」  粟津家の本拠地は東京丸の内にある。むろんその他にも大手町や日本橋をはじめとした都内全域や日本国内各所のみならず海外にも散らばっているわけだが、本社というのは丸の内だ。汐留とは目と鼻の先である上、企業家同士の付き合いとして周の社のこともむろん知っているし、鐘崎らを通して周自身とも何度か顔を合わせている間柄だ。そんな周のアイス・カンパニーの噂を聞きつけて、事情を窺いにやってきたとのことだった。 「社のトップが入れ替わったと聞いたけど本当なのかい? 僕は周焔のことはそう深く知っているわけじゃないが、彼がトップを降りるなんて余程のことがあったんじゃないかと思ってね。お前さん方なら何か知っているんじゃないかと思ったわけさ」  ちょうど組長の僚一も在宅だったので、彼とも相談し、鐘崎はすべての事情をこの帝斗に打ち明けることにした。 「なるほど。そんな事情があったわけかい。それを聞いて納得したよ。まさかあの周焔が経営をしくじるわけもないと思っていたからねえ」  帝斗は合点がいったとばかりに安堵すると共に、それなら自分たちも是非協力させてもらえないかと言ってくれた。

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