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倒産の罠30
それによると、今度は監禁されている者たちがアップで映し出されていて、犯人たちの姿は見えないながらも画面の外から監禁者たちに向かって指示が成されている声が聞こえてきた。その内容もまた驚くべきものだった。
『ほら、言え! この画面の向こうには警視庁のお偉方様がわんさと待機しているんだ。助けてください、僕たちの親が経営していた会社を乗っ取った犯人を捕まえて、そいつらから金と会社を取り戻してください刑事さん! って、そう言うんだ!』
『こんなチャンスは二度とないぞ! 刑事さんに助けてください、会社も金も元通りに返してくださいって懇願しろ! そうすりゃお偉い警察の方々だ、絶対何とかしてくれるだろうよ!』
『ほら! ここへ来て一人ずつ泣いて頼むんだ! 早くしねえか! 二度とないチャンスを潰してもいいってのか!』
犯人の手が一人の男の襟首を掴み上げて画面の前へと引き摺り出す様子が映される。
男が怯えて声も出せないでいると、今度はナイフが突き付けられて、男は涙ながらに言われた通りのことを懇願してよこした。
「け、警察の皆さん……た、助けてください……。ぼ、僕らの親が乗っ取られた会社を……取り戻してください……」
一人目がそう言うと、今度は別の男が引き摺り出されて、同じことを言えと強要された。
『よし、次だ!』
そうして五人ほどの男女に同じことを言わせた後、犯人の声がこう言った。
『聞いたか、刑事さんよー! 当然あんたたちは可哀想なこいつらを助けてやるんだろうなぁ? まさか見殺しにしようなんてことは夢にも思っちゃいねえよな?』
『もしも見殺しにするってんなら俺たちには考えがあるぜ。これ、何だか分かるな?』
犯人の手が持っていたのは爆弾のような代物だった。
『お察しの通り爆弾だ。もしもあんたらが全員を見捨てるってんなら、こいつでここを吹っ飛ばすぜ。その前に俺たちはトンズラだ。無事に逃げ切れた時点でタイマーで吹っ飛ばすって算段よ! それが嫌なら耳揃えてこいつらが乗っ取られた会社を取り戻せるだけの金を用意することだ』
犯人たちは一時間後にまた連絡するからリモートで会話ができるように準備しておけと言って映像は切られた。
「クソッ! 何てヤツらだ!」
丹羽は至急この動画の発信元を割り出すようにと指示を出した。
今の映像では冰は割合後ろの方にいたらしく、警察宛ての会話には引き摺り出されていなかったものの、捕らわれているのは皆冰と同年代くらいの若者たちばかりだった。
捜査班が声紋などを鑑定にかける傍らで、僚一や周らは犯人たちの動機の点から想像を巡らせていく。
「しかし変わった犯行声明だ。自分たちが乗っ取った企業を取り戻して、立て直す為の金を用意しろとはな……」
「それ自体は口実で、集めた金で高跳びでもしようというわけでしょうか……」
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