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倒産の罠32

 一方、その頃捕らわれた冰らの方では犯人たちが逃走の準備に入っていたようだ。  二箇所ある鉄製の扉の一つに爆弾をセットして、次の動画を警視庁へ送る為の段取りが進められていた。 「いいか、てめえら。三十分後にもう一度警視庁宛てに動画を送る。さっきと同じように全員で『助けてくれ』と懇願するんだ。よほどの無能でなけりゃ、いずれは警察もここを突き止めるだろうからな」 「警察がやって来たらお前らは乗っ取られた会社を取り戻してくれと拝み倒せ。ヤツらが承諾すれば命は助けてやる」  犯人たちが交互交互にそんなことを口にする中、人質の一人が恐る恐る彼らに質問を投げ掛けた。 「あの……あなた方はいったいどういうおつもりなんです? わざわざ警察をここへ呼んで……そんなことをすればあなた方だって捕まってしまうんじゃないですか……?」  すると犯人たちは感心したように肩をすくめてみせた。 「ほーお? 随分と勇気のあるヤツがいたもんだ。自分たちの身より俺たちの心配をしてくれるってのか?」  人質は男性で、ここに捕らわれている者たちの中では一番の年長者のようだった。といっても周らと同い年くらいといったところか。彼は恐怖ながらも勇気を振り絞って先を続けた。 「だってそうでしょう? 僕たちの親の会社を乗っ取ったのはあなた方なのでしょう? 中には倒産に追い込まれたところもあるんだ。それを……取り戻してくれと警察に頼めとは……何をお考えなのかと思っても不思議ではないでしょう」  彼の言うことも尤もだ。犯人たちはせせら笑いながらもその理由を説明してよこした。 「ふん! アンタの言うことはご尤もさ! 親が経営していた会社を乗っ取られ、潰されて……アンタらの生活も地に落ちたはずだ。当然警察は犯人を捕まえるのが役目だが、仮に乗っ取り犯の俺たちが逮捕されたとして、被害者であるアンタらにとってはそれだけで満足できるか? できねえだろ? 会社を取り戻して元の生活をそっくり元に戻してもらいたい――そうは思わねえか?」 「……それは……もちろん思いますが」 「だったら警察にそう頼めと言ってるんだ。ヤツらはな、事件が起こりゃ一応捜査に乗り出すフリはするが、マトモに解決できた試しなんぞ無えのさ! 犯人は捕まえられない、例え捕まえても殺人やなんかの凶悪犯罪でない限り保釈金さえ積めばすぐにシャバへ出す! 特に銭に関することなんかにゃめちゃくちゃ甘い! 乗っ取られた会社は元には戻らない、結局泣きを見るのは被害者だ! 俺たちはな、そういう警察の怠慢を世間に分からせて……二度と被害者が泣きを見なくて済む世の中にしたいと思ってるだけだ! いわば世直しってヤツだ。その為なら俺たちが捕まろうと構わねえ。そういう覚悟の下でやっているんだ!」  驚くべき言い分に、監禁されている皆が互いを見合わせてしまった。

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